『来世は他人がいい』第7巻は主人公が最大のピンチに!? 未読の人はぜひ読んでほしい魅力と三角関係

マンガ

公開日:2023/4/9

来世は他人がいい
来世は他人がいい』7巻(小西明日翔/講談社)

 極道の家で育った二人の男女、深山霧島(みやま・きりしま)と染井吉乃(そめい・よしの)。祖父の無茶振りのために婚約者候補として同居することとなったふたりだったが、価値観の相違や霧島の型破りな性格もあり、“ドキドキ甘酸っぱい恋愛”……とはならなかった。しかし紆余曲折を経て、霧島は「好きだ 絶対結婚しよう 俺の人生滅茶苦茶にして」と吉乃に求婚し、ピンチに陥るたび吉乃を何度も守ってきた。

 吉乃も守られるだけでは気がすまない、強い意志を持った女性である。悪党に殴られても「情けない」と自分を恥じるような人物であり、理解不能な行動ばかりの霧島に対しては淡々とした態度をとっている。

 このメインのふたりに、中学生のときに吉乃に救われて染井家に引き取られ、彼女のことを大切に思っている鳥葦翔真(とりあし・しょうま)が絡み、命がけの三角関係が織りなされていくのも『来世は他人がいい』(小西明日翔/講談社)の見どころだ。

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 サスペンスなのか、極道ものなのか、ラブストーリーなのかわからないけどとにかくドキドキするし楽しいし、続きがどうなるのかまったくわからない。

 その内容は高く評価され、「次にくるマンガ大賞2018」コミックス部門1位を記録、その後も人気は伸び続け、単行本第5巻からは発売記念の動画が公開されるようになった。

 吉乃や霧島は、これまで極道のもめごとに巻き込まれたり、吉乃が誘拐されかけたりと数々の困難に面して、そのたびに切り抜けてきた。最新の第7巻では今までの出来事が吹き飛ぶほどの大事件が起こる。

吉乃が死んだらどうしよう

 霧島にこうつぶやかせた理由は何なのか、ぜひ単行本を読んで知ってほしい。

 この作品の理解を今よりもっと深めて、きたるべき最新刊(まだ発売になっていない第8巻)に向けて準備したいと思い、第1巻から第7巻までを振り返っていると、あることに気づいた。

 霧島と翔真の恋愛に対する不思議な価値観である。

 霧島と吉乃は東京でとある事情から同居している。一方、翔真は大阪に住み大学に通っているのだが、初登場からずっと、吉乃に何かあれば東京でも大阪でもすぐ飛んでいくので、物語の中で翔真の存在感はまったく薄れない。

 霧島と翔真は自分の命をなげうってでも吉乃を守ろうとしていて、吉乃をはさんだ殴り合いのケンカの過激度は殺人未遂事件を見ているようであった。

 ヒロイン吉乃を強く想い、守り、彼女をとりあう――ここまで書くと霧島も翔真も少女漫画のヒーローのように思えてくるのだが、この二人、女性読者が多い漫画のメインキャラとしては珍しく女遊びが激しく、翔真にいたってはそれを吉乃に隠す気配もない。

 それなのに、霧島も翔真もほかの女性が目に入らないほど吉乃のことを大切に想っている。

 これもまた事実なのだ。

 ふたりとも(翔真に関しては恐らく)初めて恋をした相手が吉乃であるということが大きく影響しているのだろう。性的な行為と恋愛を絡ませていないのだ。

 特に霧島の場合、関係を持つ女性もまたほかに本命の男性がいる場合があり、自分への気持ちの有無にはまったく頓着していないように見えるため、その可能性は高い。

 一方、翔真は表情には出さないが吉乃を大切に想いすぎて、吉乃に手を出そうとする男たちに対しては容赦ないが、自分が吉乃とつきあいたいという欲求は薄いようだ。

 第6巻で吉乃と翔真がふたりきりになったとき、吉乃が翔真と結婚するのも良いかもと話した。そのときまで翔真は吉乃を手の届かない相手だと思い込んでいたふしがある。

 霧島や翔真が漫画の中のセリフでそれを語らなくても、私たちは自然とそんな彼らの胸のうちを想像する。現実なら本命以外の人に手を出すなんて論外だと思っている人がほとんどであろう。だが、フィクションだからこそ、霧島や翔真の吉乃以外の女性に対しての性的な行動をドライに捉えられるというような、嫌悪感を抱かないという奇妙な現象が起きる。

 霧島と翔真が吉乃を守るために自分の命をかけている。その描写を見ると、彼らの女性関係はどうでもよくなってしまうのだ。

 どんなに大変な事態が起こっても、まるでラブコメを読んでいるかのように吉乃、霧島、翔真の三角関係が気になる。そこにも本作ならではの面白さが感じられる。

文=若林理央

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