凄腕小学生転売ヤー・金木くんの転売テクで転売業界の実態を学ぶ『テンバイヤー金木くん』

マンガ

公開日:2023/6/17

テンバイヤー金木くん
テンバイヤー金木くん』(早池峰キゼン/ジーオーティー)

 正月が終わりバレンタインも過ぎ、桜は散ってGWで疲れ果てた頃、驚くことにもう1年の半分が経過しちゃっていました。この頃合いになってくると、マンガ好きの皆さんなら「上半期に読んでよかったマンガ事情」をシェアすることも多いはず。2023年も多種多様な作品が発表され話題に上ってきましたが、みなさんの心を一番ワクワクさせたのはどの作品だったでしょうか。

 わたしが2023年上半期に「出会えてよかった~!」とイチオシしているのは、転売のアレコレを表沙汰にしながら少年の成長を描く『テンバイヤー金木くん』(早池峰キゼン/ジーオーティー)という作品です。ビジネス書やお仕事系エンタメが好きな方はもちろん、インフルエンサーの方など多くの人に興味を寄せてもらえる内容なので、もっともっとたくさんの人に読んでほしい~!と願ってやみません。

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##主人公は異色の「小学生転売ヤー」

「転売ヤー」とは、商品を定価で仕入れ、売買アプリなどを使って定価よりも高い値段で商品を販売し利益を得る人を侮蔑的に呼ぶ俗称です。『テンバイヤー金木くん』はその名の通り、転売で利益を得ている金木くん(小学生)が主人公。

 ニュースでも広く報道されるように、転売目的での買い占めや高価格での売買は本来それを正規に手に入れたい人の機会を阻害する行為でタブーです。しかしそれらの行為には明確な規制がないため、高額転売は手をかえ品をかえ蔓延しています。そういうインモラルな業界事情に触れる危険な好奇心を満たす楽しさが、この作品の見どころのひとつです。

 ページを開いて真っ先に目を奪われるのは、転売ヤーとして利益を生み出している金木くんの「凄腕転売テクニック」の数々。アプリやサイトを使った転売の仕組みがストーリーに従って惜しげもなく解説されていくので、今まで知っているようで知らなかった「転売業界」の実態を覗き見ることができ、好奇心をくすぐられます。

 転売が引き金となった様々なトラブルを、金木くんが自前の知識と冷静な判断力で解決に導く様子も痛快&爽快!

 そしてこれらの「転売ハウツー」の露出にとどまらない「少年の成長物語」としての圧倒的面白さが、本作のキモでもあります。

##「良い大人」との出会いが少年の人生観を変えていく

 人生の先を歩くかっこいい大人たちとの出会いは、少年少女たちの成長に多大な影響を与えます。それはフィクションにおいても同様で、大人たちとのよき出会いからもたらされる主人公の成長は、読者がもっとも読みたいシーンのひとつではないでしょうか。そんな「良い大人たち」との出会いを丁寧に描くのが『テンバイヤー金木くん』のもうひとつの魅力なのです。

 世間の「転売ダメ絶対」という風潮を知りながら転売業界で仕事を続ける金木くん。彼が仕事にしているのは「レア商品を買い占めて高値で売りさばく」という「買い占め転売」と呼ばれる手法です。金木くんは転売を続けるうちに立ち塞がった様々なハードルを乗り越えるため「大人」を雇うことにします。それが、ニートでちゃらんぽらんな大友という男です。

 大友はおおらかで人当たりがいい「コミュ強」タイプ。教養が足りないきらいはありますが、馬鹿ではない。しかし知らないことが多いので、金木くんに教えを乞わなければ転売業務をうまく回すことができません。そんな「知らなさ具合」がいい塩梅で事態を引っ掻きまわし、金木くんが蓋をしていた転売に対する後ろ暗い気持ちを浮き彫りにしていきます。

 当初、頭のキレる小学生とちゃらんぽらんなニート男、という凸凹バディ的面白さが2人の見どころだと感じていたのですが、大友が徐々に金木くんに気づきを与える存在となっていくことでその面白さがさらに進化を遂げました。2人の関係性の変化が金木くんの成長の起爆剤になっていく様子が…良すぎる…!

 さらに金木くんの周りには、力仕事を引き受けてくれるホームレスのおっちゃんたち、古着販売の大学生インフルエンサー、知識に長けた古美術商など、転売で繋がった大人たちとの輪ができあがります。家族のような友人のようなあたたかい繋がりに触れながら転売業の是非を自問し、誰かと助け合うことの尊さを知っていく姿はまさに胸熱。

 かの有名な松下幸之助は「商売とは感動を与えることである」という名言を残しています。金木くんにとって後ろめたさを抱える転売ビジネスが、誰にどのような感動を与える仕事に変化していくのか。金木くんのフェーズの変化が今後の見どころのひとつといえるでしょう。

##新時代を生き抜くために!

 近年、転売にまつわるトラブルはわたしたちの生活を少しずつ侵食してきています。

 作者の早池峰キゼン先生は「高額転売、買い占めダメ絶対!」の精神で本作の連載をスタートさせたとのこと。だからこそ、転売に対する知識や熱量がハンパない! 転売の悪質さとそれによって引き起こされる被害といった闇の部分を明るみに出し、読み応えも抜群です。

 自分や大切な人を守るため、本作を通して転売の知識を身につけておくのもおすすめ。2023年はぜひとも『テンバイヤー金木くん』を追いかけてみてください!

文=ネゴト / あまみん

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