ままならない日々を送る42歳シングルマザーが恋をしたら。好きになった男性の、まさかの正体【書評】

マンガ

更新日:2023/12/1

わたしが誰だかわかりましたか?
わたしが誰だかわかりましたか?』(やまもとりえ/KADOKAWA)

 漫画家・やまもとりえ氏は先の読めない物語と、予想を裏切る結末を描くのが巧みだ。話題になったコミックエッセイ『わたしは家族がわからない』(KADOKAWA)も、そうだった。

 同作は真面目な父親が突然失踪し、1週間後に帰宅するといった気になるミステリコミックエッセイ。空白の1週間が明らかになるにつれ、普通だった家族の形が変わっていく過程や衝撃のラストに驚かされた人は多かったことだろう。

 やまもと氏の作品に触れると、描かれている人間関係から気づきを得て、人との関わり方を見つめ直したくもなる。『わたしが誰だかわかりましたか?』(KADOKAWA)も、まさにそんな作品だ。

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 本作は「シリーズ 立ち行かないわたしたち」の第一弾。本シリーズのテーマは、ままならない日々を生きる人物の姿を他人事ではなく、“わたしたちの物語”として想像できるようなセミフィクションであること。

 本作には、孤独感を抱えたバツイチのシングルマザーが、ひとりの男性に恋焦がれていく姿が描かれている。

バツイチ女性がシングルファザーに恋! その先には衝撃の結末が…

 海野サチ(42)は、バツイチのシングルマザー。離婚後は、イマイチ親身になってくれない友人たちにやきもき。これまで真面目にコツコツ頑張ってきたのに、手元に残ったのは反抗期の息子と仕事だけであることに虚しさを感じてもいた。

 そんなある日、仕事関係のパーティーで同じくバツイチの川上樹と出会う。樹はシングルファザー。何気ない会話をする中で、サチは樹にときめき、何年かぶりに男の人の手に触れたいと思った。

わたしが誰だかわかりましたか? P18

 すると、数日後。仕事用のアドレスに樹からメールがあり、2人は連絡を取り合うように。思わぬ展開にサチは浮足立ち、日常が少し楽しくなった。

 次に会ったら手に触れたい。できれば、匂いもかぎたい。そう願うほどサチは樹に強く惹かれていくが、なぜか彼は何かと理由をつけ、会おうとしてくれない。

 もしかして、他に女がいるのではないか…。そうモヤモヤするも、連絡を絶つことはできず。そんなサチの揺れ動く心は、人を愛することは傷つくことでもあると知ってしまった私たち大人の心に深く刺さる。

わたしが誰だかわかりましたか? P44

わたしが誰だかわかりましたか? P45

 本作は一見、不倫をテーマにした修羅場物語だと思えるかもしれないが、実はもっと深い真相が隠されており、誰かを想うこと、信じることの難しさを考えさせられる。

わたしが誰だかわかりましたか? P138

 また、作中には、サチに心配をかけまいと、いじめを隠す反抗期の息子や不妊の悩みから子どもはいらないフリをする友人など、サチ以外にも心が揺れ動いているキャラクターがたくさん登場。そうした心理描写に触れると、人にはさまざまな顔があるのだと改めて痛感させられ、自身の家族や友人、恋人の見え方も変わるだろう。

 幸せそうに笑っているあの人にだって、見えない傷はきっとある。生きていくのは大変だから、人は自分の傷にばかりつい目を向けがちだが、いつも笑顔の人にも涙にくれる日があることを忘れてはいけないのだ。

 立ち行かないのは、私だけじゃない。そんな気づきも本作で得てみてほしい。

文=古川諭香

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