第65回メフィスト賞を受賞した大型新人のミステリー。事故死したクラスメイトが、教室のスピーカーに憑依した…

文芸・カルチャー

PR更新日:2024/5/31

死んだ山田と教室"
死んだ山田と教室』(金子玲介/講談社)

 交通事故で死んだクラスメイトが、教室に備え付けられている「スピーカー」になってしまった――。

 なんとも奇天烈な設定で発売前から話題を集めていた小説が、ついに書店に並んだ。タイトルは『死んだ山田と教室』。第65回メフィスト賞を受賞した、金子玲介さんによるデビュー作である。

 物語の舞台となるのは啓栄大学附属穂木高等学校の二年E組。そこはごくふつうの男子校であり、二年E組は「いちばん賑やかなクラス」と評されるくらい明るく、雰囲気が良い。その中心的な生徒が山田だった。でも山田は、夏休みが終わる直前に死んでしまう。飲酒運転の車に轢かれたという。

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 突然の訃報に、E組のみんなは呆然とする。みんなに愛されていた山田が死んでしまうなんて……。

 ところが、哀しみに打ちひしがれ、沈んでいくようなクラスの空気をぶち壊すように、教室のスピーカーから「声」が聞こえてくる。誰もが耳を疑うが、それは紛うことなき「山田の声」だった。教室中がその声に反応し、問答を続けるうちにわかったのは、「山田の魂がスピーカーに憑依した」という信じがたい事実だった。こうして、残された二年E組の面々と、スピーカーになってしまった山田との奇妙な日々が幕を開ける――。

 スピーカーになった山田を前にして、E組の生徒たちは初めこそ戸惑うものの、好意的な態度を示す。他のクラスの生徒にはバレないよう、山田と会話するときには合図を決め、くだらないお喋りに興じる。ときには意味のないことを延々と駄弁り、ときには下ネタを連発する。金子さんの軽快な筆致も相まって、上質な会話劇のようにも読めるだろう。なんの意味もないのに、いや、意味がないからこそ、ずっと聞いて(読んで)いたい。彼らのお喋りはまさに、ごくありふれた男子高校生たちの日常風景として描かれていく。それが非常に心地よくて、面白い。

 山田がスピーカーになってしまうというハプニング(?)は起きてしまうものの、物語前半までの本作は、10代の頃の尊い時間を切り取った青春小説として読めるだろう。

 ところが、作品の真骨頂はここから。読み進めていくにつれて、E組の生徒たちが一枚岩ではないことが明らかになっていく。山田の復活を喜ぶ者だけではなく、死の真相を探ろうとする者、後悔の念を拭い去れない者……、そしてなかには、山田のことを受け入れられない者もいるのだ。

 そうして本作は、ミステリー小説としての色を徐々に濃くしていく。クラスの中心人物だった山田の意外な過去、その死に隠された謎。作中に鏤められた「小さな違和感」のようなものがやがてはひとつにつながり、すべてが明かされたとき、大きなカタルシスが得られるだろう。

 ただし、ラストは謎解きだけでは終わらない。最終章で描かれるのは、痛みにも似た生々しい感情そのものだ。特に最後のシーンは行間からも涙や叫びが滲むようで、心が揺さぶられる。これをハッピーエンドと受け止める人もいれば、なんて悲しい結末なのだ……と言葉を失う人もいるかもしれない。もしかしたら、解釈は人それぞれかもしれない。しかし、いずれにしても、読んで良かったと思うはずだ。本作を読み、山田というひとりの少年と出会えて本当に良かった、と。

文=イガラシダイ

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