日本人は重税を課す組織のカルト信者!? 元財務省の奴隷的存在だった森永卓郎氏が警鐘

社会

公開日:2023/6/30

“死ぬまで働いて、税金と社会保険料を払い続けろ。働けなくなったら死んでしまえ”

 上記は5月22日に発売された『ザイム真理教――それは信者8000万人の巨大カルト』(森永卓郎:著/フォレスト出版)からの引用である。

 この文章が示す通り、日本では増税に次ぐ増税、社会保険料の度重なる負担増、さらには昨今の物価高や電気代の高騰も相まって、人々の生活が圧迫されている。

「働けなくなったら死んでしまえ」という部分については、社会保障が必要で、税収をあまり生まない高齢者や基礎疾患のある人が多く亡くなっている状況で、新型コロナウイルス対策の早期縮小を行ったことなどを皮肉ったものだ。

advertisement

 多くの人はもう薄々気づいているだろう。日本が貧しくなっており、少しずつ生活が苦しくなっていることを。しかし、その原因は何か? と問われると、日本人の多くは「税金が増えているから」くらいにしか答えられないかもしれない。本書では、そのさらに奥深いところ、どうして税金が増えてしまうのか? というところにまで踏み込んでいる。

 さらには、「どうして税金が増えてしまうのか」のもっと奥、どうして税負担が増えても、国民は反発しないのか? という点にまで言及する。そこに本作の肝、財務省のカルト化が潜んでいるのだ。

財務省の消費税推進の考え方に洗脳されている日本人は8000万人!?

 消費税は、2014年4月から8%に増え、さらに2019年10月から10%となった。増税前の駆け込み需要と増税後の買い控え、そして需要が回復しないことを見れば、消費増税が消費にマイナスであることは明白だろう。

 しかし、増税からわずか2年後の2021年10月に朝日新聞が行った世論調査において「一時的にでも消費税を引き下げるほうがよい」と答えた人は35%にすぎなかった。つまり、単純計算で国民のうち8000万人が、消費税はそのままか、あるいは増税してもよいと考えていたのだ。

 国民の負担であるはずの消費増税に、多くは苦しみと反対の声をあげていない。国民たちは忙しく日々を過ごすうちに、慣れてしまっているのだ。

 では、そもそも消費増税を推し進めるのは、いったい誰なのか?

 答えは財務省である。彼らの考え方や、国民に増税を受け入れさせた仕組みについて考えてみる。

借金してまで文化祭で出す焼きそばに有名チェーン店の監修はつけない

 財務省の軸となる考え方に「財政均衡主義」がある。これは、予算の支出と収入が一致すべきであるという考え方で、これを熱心に政治家から国民へと洗脳を進めてきたと、本書には書かれている。

 この考え方をわかりやすく説明してみる。例えば、文化祭を思い出してほしい。クラスのメンバー全員から一定額を徴収し、それを予算として、タイ焼きを作ってみたり、焼きそばを作ってみたりする。つまり、徴収した金額=予算としているのだ。この決まりは厳格だ。予算以上の金額を使いたいからと借金して予算を作り出し、贅の限りを尽くした高級タイ焼きを作ったり、有名チェーン店の監修を入れた焼きそばを作ったりするクラスはないだろう。

 財務省がやっているのも概念的には同じだ。

 国債を発行してお金を調達するという手段もある。しかし、基本的には国民から徴収した税金で支出を賄うことを優先する。国の借金は極力増やさない。文化祭のクラス予算に通じる点がある。これが「財政均衡主義」である。

 さて、財務省のこの考えを国民に浸透させ、税収を増やすためには、脅しが有効的なようだ。

 徴収した税金で予算を賄うにあたり「現在日本の借金は◯◯円です。つまり国民ひとりあたりの借金は△△円にもなるのです!」といったニュースで国民を脅してみるとどうなるだろう。国外と比べて従順な日本人なら、国の借金を見れば増税も仕方ないかも……というムードになってしまう可能性が高い。

 ニュースに財務省は関係ないのではないかと思うかもしれないが、報道を行う大手新聞社にも財務省の息がかかっている、と本書は語る。1950年から1970年にかけて東京の大手新聞社の本社は、現財務省の担当で国から時価の数分の一の値段で安く払い下げられた土地に建設されたらしいのだ。財務省への忖度があってもおかしくはないだろう。

 こうした根回し、周囲を固めることによって自分たちの教義を推し進め、税収を増やすための布教を行う姿こそ、森永卓郎氏が財務省を「ザイム真理教」と呼ぶ所以である。彼らがいかに政府や国民を洗脳し、彼らの教義を浸透させたのか。本書ではあらゆる角度から切り込んでくれている。是非、実際に読んで確かめてほしい。

かつて財務省の奴隷のような立場だった森永氏だからわかる財務省の異常さ

 本書は、一見するといかにも経済学的な話も、わかりやすくデータを提示して解説してくれるため、これまで経済について学んでいない人でもうまく理解できるような設計になっている。また、森永卓郎氏が、財務省(当時は大蔵省)によって予算の大半を牛耳られていた専売公社(今の日本たばこ産業)にかつて従事していた小話などもあり、非常に楽しんで読むことができた。

 また、財務省がいかにカルト化しているかを説明した部分がやはり一番の見どころだ。財務省は「予算欲しさに、誰もがひれ伏してくる。自分の命令には絶対服従」という立場であるが、財務省の教義「財政均衡主義」などを布教し、増税を受け入れさせる時に限っては、自ら出向くのだそうだ。

“彼らは何かあれば人を呼びつける。財務官僚自ら足を運ぶというのは、何らかの魂胆があるに違いない”

 小中高大向けに財政教育プログラムを用意して、あの財務省が自ら出向いて子どもたちに教義を早いうちに教え込むという魂胆だ。そういった熱心な布教活動も、国民洗脳の手段のひとつであるらしい。

 その他にも、天下り問題、消費税と実質賃金の関係、年間所得1億円以上の富裕層への配慮など、多くの問題がわかりやすく取り上げられている。

 我々を取り巻く環境を注視することはとても重要である。忙しい日々に追われるあまり、漫然と今の状況に慣れてしまっていないだろうか。明確にカルトと呼ばれていないものも、実はあなたを浸食し、洗脳しているものが多く潜んでいるかもしれない。今後、貧しい暮らしを知らぬ間に強いられてしまう前に、まずは現状を把握することが大切だと、強く思わされた一冊だった。

文=奥井雄義

あわせて読みたい