「結婚すれば手を握り放題!」視点を変えて幸せを再確認できる『トニカクカワイイ』

マンガ

公開日:2023/7/9

トニカクカワイイ
トニカクカワイイ』(畑健二郎/小学館)

 結婚生活の楽しさってなんだろう?

「旦那が家事をしてくれなくて大変!」「妻が全然お小遣いをくれない!」そんな(ハタから聞いていると幸せそうな)悩みは聞いたことはありますが、楽しさについて話してくれる人はあまりいないかも。みんな、照れないで教えてよ!

 ということで筆者は、結婚するとどんな楽しいことがあるのか『トニカクカワイイ』(畑健二郎/小学館)から学ぶことにしました。「知らない人の結婚生活なんて知っても面白くないよ!」と思った方、ご安心ください。だって、このマンガの根本にあるのは「幸せの見つけ方」なんですもの。

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プロポーズは突然に

 司とナサの出会いは、遡ること数年前。ナサが高校受験を直前に控えた冬の頃でした。中学生模試全国1位の結果を手に、浮かれながら夜道を歩いていたナサは、反対側の歩道を歩いていた司を偶然見つけ、恋に落ちたのです。

「一目惚れをしても声なんてかけられない…!」と筆者なら思ってしまいますが、この頃のナサは滑り止めの学校を受けずに、偏差値70超えの国立名門校を受験しようとしたほどの自信家。目の前に現れたとっっってもカワイイ女の子をみすみすと見逃すような男ではありません。

「あ、あの…!!」

 と声をかけて情熱的に告白。すると司からは予想外の言葉が返ってきました。

「私と結婚してくれるなら、付き合ってあげる。」

 え、いきなり結婚!? しかも惚れたナサじゃなくて司の方から逆プロポーズ!? 衝撃的な展開で筆者が気絶しているうちに月日は流れ、ナサが18歳(司が16歳)になる年に2人は結婚し、物語は幕を開けました。

え、結婚ってそんなに良いコトづくしなの!?

 結婚とは手を握り放題だということ。

 それを教えてくれたのは他でもないナサでした。婚姻届を出しに行った帰り道、結婚した実感がないままのナサに司は「じゃ…とりあえず手でも繋いでみる?」と、何気なく手を差し伸べます。

 その手を握ったナサは、握りしめた手の柔らかさや温かさをじんわりと感じ取り「これから死ぬまでこれを握り放題なんて!!すごいぞ結婚!!」と感激の声を漏らしました。握り放題って!

 その後も2人の新居となるナサの部屋に布団がないと知ると、深夜のディスカウントショップで手を繋ぎながら布団を選んだり、翌朝2人で行った銭湯の前でナサは司への愛を叫んだり…。あまりに幸せそうな光景の数々に、もうお腹いっぱい。結婚ってそんなに良いコトづくしなの!?

 ナサの反応はピュアすぎるかもしれませんが、彼女を作るより前に結婚したナサにとっては、きっと何だって刺激的なんです。本作は結婚っていいな…というか、初恋のピュアな気持ちっていいな!?と思える作品であることに間違いないですよ!

結婚はきっかけに過ぎなくて

 ところで、司とナサの結婚はあまりに突然でした。それゆえ2人で住むにはナサの家は狭すぎるので、引っ越しをしなければいけません。引っ越しとなれば未成年の2人に必要となるのは保護者の同意です。

 ナサは自身の両親に、保護者として引っ越しの同意を求めるわけですが…実は、両親に結婚したことをまだ報告していませんでした。そんな状況で突然証人になってほしいと電話をかけたところ「一度お嫁さんを連れて帰ってきなさい」とのこと。そりゃそうだ!

 気が進まない様子のナサでしたが、家族への挨拶は大切。それに東京に住んでいるナサたちからすれば、奈良に住む両親への挨拶は新婚旅行と言えます。そう考えるとむしろ、この旅もイチャつくチャンスなのでは…!?

 ということで気分が前向きになってきたナサは、両親への挨拶(という名の新婚旅行)に先立って司と買い物に行きました。そこで司に欲しいものと聞くと「カメラが欲しい」とのこと。カメラ…最近は使わなくなっちゃいましたね。何でもかんでもスマホでOK。カジュアルに撮影できる分、大事な思い出を大切に記録するって意気込みが随分減ってしまった気もします。だからカメラ!なんです。

 司はこのときの胸の内を「日々の生活の中で…人は忘れがちになるの…」「愛する人と過ごすこの一日一日が、何よりも貴重だってことを…」「だから…こうやって少しずつ思い出を積み重ねていきたいの…」と打ち明けてくれました。16歳の少女の言葉とは思えないほど胸に突き刺さります。年を重ねるほど、写真がたくさん入ったアルバムって価値を感じるもんね…。

 この作品の魅力は「かけがえのない日常で見逃してしまっている幸せを再確認できる」ところにあるんだと思います。読み進めていくと「お金より大切な思い出の話」や「不便に見える生活の中にある幸せの見つけ方の話」が山ほど出てくるんです。

 なかには当たり前だよと思う話もあるかもしれませんが、忙しい日常を続けていると当たり前のことだって、忘れてしまうときがあるのではないでしょうか。視点を変えると幸せはすぐそばにある。それを思い出せたことが、筆者が本作を手に取って得た喜びです。

当たり前の幸せを再確認したいときには

 筆者は『トニカクカワイイ』を、幸せを再確認できる作品だと解釈しました。モチーフは「結婚」でしたが、幸せは同僚や友達と過ごす日常の中にもあるはず。確かに最近忙しかったかも…と思ったアナタ、本作と一緒に見落としていた幸せを探しに行きませんか!

文=ネゴト / 星月まふゆ