韓国語で「オジルオジル」ってどういう意味? 「ゆる言語学ラジオ」水野さんも称賛! オノマトペから“言語の本質”に迫る新書が面白い

文芸・カルチャー

公開日:2023/7/7

言語の本質 ことばはどう生まれ、進化したか
言語の本質 ことばはどう生まれ、進化したか』(今井むつみ、秋田喜美/中央公論新社)

 ぐつぐつ、もふもふ、ギクッ、ニャ―、ぴえん、ぱおん。

 こうしたオノマトペ(擬音語や擬態語)の面白さをひもとく研究が、いつのまにか「人はなぜ言語を習得できるのか」「言語の本質とは何か」「人間の思考の本質とは何か」という巨大な問いの追求に変わっていく……。

 そんな書籍『言語の本質 ことばはどう生まれ、進化したか』(今井むつみ、秋田喜美/中央公論新社)がすこぶる面白い。「ゆる言語学ラジオ」の水野太貴さんも、本書のことをツイッターで以下のように称賛していた。

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 では、本書の何がどう面白いのかを、オイシイ部分を少しずつつまみながら具体的にひもといてみよう。

韓国語のオノマトペ「オジルオジル」の意味、分かる?

 本書の前半~中盤は、「オノマトペのトリビア本」の感覚で楽しく読み進められる内容だ。

 韓国語の「オジルオジル」はめまいの症状(クラクラ)を表す。中央アフリカのバヤ語の「ゲレゲレンゲ」は痩せこけた様子を表す。こうした具体例がまず楽しい。

 上記の例については「その音の感じと意味のつながり、全然しっくりこない!」とも感じる人が大半だろうが、それは日本語のオノマトペを学ぶ外国人も同じだそうだ。

 なお犬の鳴き声(日本語の「ワンワン」、英語の「バウバウ」、フランス語の「ワフワフ」)のように言語間に類似性が認められるオノマトペもあるそうだが、これはオノマトペが「音が意味を教えてくれる言葉」であり、音や動作などの感覚イメージをアイコン的に写し取る言葉であるためだ。

 そうしたオノマトペは「普通の言葉」に発展して日常で使われていることも多く、日本語では「ふく(ふー)」「すう(すー)」「ヒヨコ(ひよひよ)」などがその一例。「はたらく」も「はたはたする」というオノマトペを語源に持つとされる……なんていう逸話も面白かった。

 本書の著者2人は認知科学者と言語学者。専門的な用語も用いて上記のような内容が説明されるが、こうしたテーマは日本語話者には身近かつ興味深いもののため、楽しく読めるはずだ。

なぜ子どもはオノマトペを多用して言葉を覚えるのか?

 そして本書は徐々に「人はなぜ言語を習得できるのか」「言語の本質とは何か」「人間の思考の本質とは何か」といった巨大な問いに迫っていく。

 そこでキーになるのが、オノマトペを多用しながら言葉を覚えていく子どもの存在だ。

 先に書いたように、オノマトペは一般の言葉と異なり「音からその意味を推察できる」という特徴を持っている。そのためオノマトペは、子どもに「目の前の現象のどの要素に注目すべきかを自然に教える」という機能を持っており、「音と視覚情報の対応を感覚的に感じ取り、『言葉は意味を持つ』という気づきをうながす」という役割も果たしているのだ。

 では、子どもはその先どうやって語彙を増やしていくのだろうか。

 本書では様々な角度からその解説がなされているが、筆者が面白いと感じたのは「一般化の誤り」の話だ。

 本書ではその例として、部屋に入りたいとき、トイレから出たいときなどに「あちぇちぇー(開けて)」と言っていた子どもが、ミカンを食べたいときも「あちぇちぇー」と言って持ってきた……という逸話が紹介されていた。

 子どもはそうやって、知っている言葉を推論により一般化し、ときに誤りを犯しながらも語彙を増やしていく。その過程で言葉の仕組みを学び、身の回りの世界の言い表し方を学び、論理的な思考力も身につけていく……。

 そうした言葉の学習過程を解説するなかで、本書には「学習は『経験の丸暗記』によるものではなく、『推論』というステップを経たものなのである」という金言も登場していた。子育てをする人や、子どもの成長に関わる仕事に就いている人は、胸に深く刻んでおきたい言葉だ。

 ちなみに本書にはその先で、「人間は子どもの頃から、そして成人になっても論理的な過ちを犯すことをし続ける。しかし、この推論こそが言語習得を可能にし、科学の発展を可能にしたのである」という言葉まで登場する。そしてこの言葉は、本書を頭から読んでいくと非常に納得できるものなのである。

 ……といったように、気づけば話が超壮大になっている本書。冒頭からの読みやすさはありながら、中公新書らしい芯の通った教養書にもなっている1冊だ。

文=古澤誠一郎

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