『ARIA』『あまんちゅ!』の天野こずえ最新作。二足歩行でお茶も淹れる巨大黒猫と天真爛漫な少女の「色」を作る物語

マンガ

公開日:2023/8/4

Colori Colore Creare
Colori Colore Creare』(天野こずえ/マッグガーデン)

 いま話題のSFファンタジーコミック『Colori Colore Creare(コローリ コローレ クレアーレ)』(マッグガーデン)をご存じだろうか。

 作者はダイビング部の女子高校生たちの物語『あまんちゅ!』(マッグガーデン)や未来の火星を舞台にした『ARIA』(マッグガーデン)などで知られている天野こずえ。本作はその天野氏の最新作で、 “ハートフルきっずストーリー”なSFファンタジーなのだ。

 物語は、自分のことを「あかさん」と呼ぶ天真爛漫な少女・あか(以下:あかさん)が、ある日、巨大な黒猫と出会うところから始まる。

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Colori Colore Creare 1巻8P

■天真爛漫な少女・あかさんとお友達とのハートフルストーリー

Colori Colore Creare 1巻38P

 あかさんが祖父のジーノと住んでいるのは、とある島にある “のれん”に守られた「おのぼり町」。そこで彼女が巨大黒猫とたわむれているのを見守る女性がいた。彼女はあかさんを受け持つ派遣保育士「若葉之守人(わかばのもりびと)」の橙(だいだい)のどかだ。のどかの仕事はまさに保育士で、子どもたちといっしょに近くを歩き、学び、遊ぶのだ。

Colori Colore Creare 1巻74P

 なお、のどかが担当するのはあかさんだけではない。わんぱく盛りの羽藍(ウラン)や、本が大好きなヴェルディ・マーレといった近所に住む少女たちとも触れ合う。あかさんは、そんな二人と“おともだち”になるのだ。アクティブさや冒険心にあふれる羽藍、慎重な性格ながら知恵と知識に優れるヴェルディとかかわっていくなかで、あかさんの“創造性”が発揮されるようになる。

Colori Colore Creare 1巻139P

 そしてそこには「くろちゃ」と名付けられた巨大黒猫がいつもいっしょだ。くろちゃは人間の成人よりも大きい身体だが、二足歩行で、器用にお茶も淹れられる。謎めいているがとにかくかわいい。あかさんはくろちゃといると、大声ではしゃぐ。彼女が最初に出会ったおともだちだからだ。くろちゃはあかさんが羽藍と最初に出会ったとき、二人がヴェルディと初顔合わせをしたときにも、見守るようにそこに居てくれた。

 子どもたちは、少しずついろいろな場所に行って、たくさんのものを見て、さまざまなことができるようになっていく。読者はまるで親目線になって、あかさんたちを見守っていくのだ。

『Colori Colore Creare』という不思議な語感の作品タイトルに込められているのは、イタリア語をモチーフにした「色とりどりの色を創造する」というテーマである。あかさんたちは、日々の暮らしから色とりどりの素敵を見つけ、紡ぎ、未来を創造していく――。

■ザ・天野ワールドでけなげに成長する子どもたち

 のどかに連れられて、あかさんたちは風車小屋の周りから徐々に行動範囲を広げていく。そうして、彼女たちの世界が開けていくのだ。そのとき私たち読者は、まるで地図アプリを拡大するかのように作品全体を見られるようになるのだ。

 1巻のラストには、物語の舞台が水の惑星・AQUAと呼ばれるテラフォーミング(惑星地球化改造)された火星だと分かる描写がある。ここで天野氏のファンは、本作が『ARIA』と世界観を同じにする物語であるのだとはっきりと気づく。

 また、本作のSFファンタジーとしてのディテールにもふれておきたい。緻密な建物や背景のデザインには感心するし、自在に宙を舞うエアバイクはメカ好きの心を鷲掴みにする。そして、列車をリサイクル改造した、のどか“たち”の住居の杜(と)レインもまたいい。あかさんたちでなくても、その秘密基地感に思わずテンションが上がってしまう。

 まだまだ多くは語られていない『Colori Colore Creare』。これから描かれるのは、さらなる世界観や設定の開示か。はたまた『ARIA』との関連だろうか。そしてやはり、あかさん自身の解像度が上がっていくことで本作の輪郭もはっきりしてくる。

Colori Colore Creare 2巻116P

 作品世界の随所に散りばめられたファンタジックな世界観の中で、ゆるやかに紡がれていくあかさんたちの日常…そう本作は“ハートフルきっずストーリー”だ。

 2巻であかさんは羽藍の家へプチ遠足し、のどかの家に泊まりに行く。あかさんたちにとって見るもの触れるものの多くは初めて。子どもたちは煌めく笑顔をはじけさせている。今後の物語の展開と、彼女たちの愛らしい描写と成長が楽しみでしかない。

文=古林恭

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