キリンビールはなぜ麒麟を選んだ? ラガーとエールの違いは? ビール好きなら押さえておきたい、意外と知らない豆知識

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公開日:2023/8/8

日本のビールは世界一うまい!──酒場で語れる麦酒の話
日本のビールは世界一うまい!──酒場で語れる麦酒の話』(永井隆/筑摩書房)

 1日の仕事終わり、グビッとのどを潤すビールは格別に美味しい。それを楽しみに働いているという人も多いはずだ。かくいう私もその1人。だが「ビールは美味しい」こと以外、実はあまりビール自体のことを多く知らない。

 そんなビールについて、種類や歴史など幅広く教えてくれるのが『日本のビールは世界一うまい!──酒場で語れる麦酒の話』(永井隆/筑摩書房)。飲み会の席などでのビール談議が盛り上がること間違いなしの豆知識を3つ紹介しよう。

誰もが知る人気ブランド・キリンビール誕生の秘密

 ビールが日本に伝わったのは江戸時代。オランダから持ち込まれたビールを幕府の役人が飲み、記録に残している。そこには「何の味わいもない」と記されていて、あまり美味しくなかったようだ。

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 その後、外国人に技術を教わりながら国内でも生産されるようになったビール。明治21年にはお馴染みのキリンビールが誕生した。モチーフに麒麟を選んだのは、当時輸入されていた海外産のビールの多くが名前やロゴに動物を用いていたのを参考にしたから。日本産であることをアピールするため、東洋の霊獣・麒麟を採用したそうだ。

 最初に作られたラベルは麒麟の文字もイラストも小さく、分かりにくいものだった。翌年、現在とほぼ同じデザインのラベルに変更。疾走する麒麟の印象的なイラストと、KIRINの文字も大きく目立つようになった。するとたちまち国内で人気に火が付き、現在まで愛されるブランドとなったそうだ。

ラガーとエールの違い、知らずに飲んでいませんか?

 ビールのラベルをよく見ると「ラガー」や「エール」という文字が書いてある。見たことはあっても、どう違うのかを知らない人も多いはず。その違いは、発酵の仕方にある。

 ラガービールは下面発酵。発酵の終わりごろに酵母が下に沈むことから、下面発酵と呼ばれているそう。低温で長時間かけて発酵させると、香りは控えめ、コクのあるビールになる。

 対するエールビールは、酵母が最終的に液面に浮かび上がってくる上面発酵で作られる。下面発酵に比べ高い温度で短時間発酵させることで、華やかな香りのビールができあがる。さまざまな香りが楽しめるクラフトビールは上面発酵のものが多いとか。

 2つのうち、歴史が長いのはエールビール。だが、私たちが普段飲むものは、ほとんどがラガービールだ。もともと需要が高かったラガービールだったものの、低温で長時間かけて発酵させなければいけないことから、気温の低い冬にしか作れないという欠点があった。

 しかし、1800年代に冷凍機が開発され、一年中ラガービールが生産できるように。低温で発酵・保管するため雑菌の繁殖が抑えられ、大量生産にむいているラガービールは市場の主流となったそうだ。

人気のクラフトビールは味の決め手の“ホップ”に注目

 誕生以来、愛され続けてきた日本のビール。これからは量や安さよりも、ビールの質が問われる時代になると言われている。現在、長年「とりあえず、生!」で飲まれてきたお馴染みブランドのラガービールだが、クラフトビールがじわじわと人気を集めているそうだ。

 クラフトビールの中で、ビールの苦み・香りを生み出すホップが注目されている。特に「ソラチエース」というホップは、サッポロビールが開発した品種で苦く、ヒノキや松のような香りが特徴だ。

 しかし、開発者であるサッポロビールは結局ソラチエースを使わず、ホップ研究者がソラチエースをアメリカへ持ち込んだそう。そのホップに目を付けた農家が栽培をスタート。さらに、農家を介して大手のビールメーカーが、ソラチエースに注目して次々とソラチエースを使ったビールを開発して、人気を博していったという。ある意味、逆輸入のような形となるが日本でも販売されているので、ぜひ注目してみてほしい。

 各メーカーともに、お馴染みのラガーの味をブラッシュアップしつつ、特徴あるエールビールを、生産量は少なくとも種類を豊富に生産する方向にシフトしているそう。好みのビールを探す楽しみがますます広がっていきそうだ。

 本書ではこうした雑学のほか、日本のビールメーカー各社の歴史や、シェアを巡る戦いの様子が語られている。ビールのために奔走する人たちのエピソードや、お馴染みのビールにどんな歴史があるのかを知ると、ビールがより一層美味しく感じられるはず。好きなビールを飲みながら読んでみてほしい1冊だ。

文=冴島友貴

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