人間は感覚のうち5%しか認識していない!? 片付けしない同居人に「片付けの価値」を気づかせる意思の伝達方法とは

暮らし

更新日:2023/8/17

すごい言語化
すごい言語化』(小暮太一/ダイヤモンド社)

 人間は自分の感覚のうち5%しか認識していない、と『すごい言語化』(小暮太一/ダイヤモンド社)に書かれている。つまり、95%の感覚は言語化できず曖昧な状態、不明確な状態でふわふわして「なんとなくそう思う」レベルにとどまっているそうだ。その結果、自分の本心のうち95%はうまく相手に伝達できず、自分の心の中をあてどなくさまようことになってしまう。相手は、本心のうち5%の言葉を聞いて、意思を受け取り、行動を起こす(あるいは起こさない)。そのために誤解が生じたり、人間関係に微妙なしこりができたりしてしまうのかもしれない。

 本書が、その状態を打破してくれるかもしれない。「ビジネスで物を売るためには?」や「幸せになりたいと言っているうちは幸せになれない」などの観点から、言語化の重要性と、言葉にできていない95%をどのようにして少しでも言語化させるかのノウハウを示してくれるだろう。

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まったく家の片付けをしない同居人への不満をぶちまけてみる

 今の僕個人の率直な感情を吐露するとこうなる。

 部屋が物で溢れていて鬱屈する。物を踏まぬようにするために踊っているみたいな妙な歩き方になり、時々それで足を挫く…同居人が物を片付けていないというくだらない理由で! 同居人の散らかった物を見るたびに反吐が出そうになる。どうして片付けられないのに物を増やすのか、無神経すぎる。迷惑をかけていることに気づかないのか、愚鈍な奴め! 不快感を禁じ得ない――

 しかし、これをただ感情的に顔を真っ赤にしてぶちまけるのでは、効果は薄いだろう。どうして片付けをしてほしいのかもろくに伝わらず、うるさく言われるから嫌々片付けをするだけで、本質的な理解に繋がらず、今後の行動も変わらないだろう。

 本記事では「相手に行動してもらう」ことを目標に『すごい言語化』を参考にして思いを伝えてみた。

「ゴールではなく手順を示す」「得られる価値を示す」「具体的な行動を促す」

●問題
 ドラム式洗濯機の上にある洗濯かごの中に、すでに洗濯された衣類が積み重なり溢れかえっている。

●解決された状態
 洗濯物をしかるべき場所に収納してもらう。

 段階を踏んで自分の意図を伝え、それに対する相手の反応を見てみることにした。なお、あまりに連続して要求を行えば、その鬱陶しさから行動させてしまう可能性もあるため、何かの作業をやりながら10分ごとくらいにふと伝えてみる、という形式で行うことにした。

セリフ①「洗濯物の片付けして」
返事:明日でもいい?
結果:行動は起こさず
返答から行動を起こすまでの時間:なし
反省点:今やるべきことではないと認識されている

 今やるべき理由を付け加えてみた。

セリフ②「次の洗濯を回すから、今のうちに洗濯物をなおしてくれへん?」
※神戸出身のため関西弁
※「なおして」=「しまって」の意味
返事:ああ! ああ!
結果:洗濯物カゴに溢れかえった衣類を表面から揉み揉みして何かを探している風だった。そのうち、手がラックにあたり、ファブリーズのような消臭スプレーが2個落下。衣類を揉むまで1秒もかからなかったが、結果的に収納はまったくしなかった。
返答から行動を起こすまでの時間:1秒
反省点:洗濯物への関心は前段階よりは高まったが、行動に移すまでのモチベーションを維持できなかったか。また、洗濯物をしまうという言葉の定義が曖昧なのかもしれないと思った。

「洗濯物を収納する」は行動に移すには曖昧すぎて、脳内で処理できなかったのかもしれない。まずは最初の簡単な具体的な動作から提示してみるのはどうか。

セリフ③「ちょっと、まずはとりあえず洗濯物カゴを部屋に運び込んでくれ」
返事:ちょっと待ってくれ。
結果:上のように言ってからベッドに寝転びスマホを操作し続けていた。
返答から行動を起こすまでの時間:なし
反省点:極度の先のばし癖があるようだ。

 やや諦めつつ、次の手段を考えていると、上の意思伝達の30分後くらいにおもむろに動き出し、洗濯カゴを部屋に運び込んでくれた。ただし、ただしである。洗濯カゴを持ってきたはいいが、またスマホ操作に戻り、衣類は放置されることになった。

 しかしこの時点で、上で伝えた行動は実施しているため、次の指示を待っているのかもしれない。続いて、あるべき姿=ゴール(衣類を片付ける)ではなく、どうすればできるのか、という具体的なやり方を教えてあげることにした。

セリフ④「スマホずっと触っとらんで、Tシャツ、ズボン、靴下、下着、それ以外に分類してみ、ポイポイッと」
返事:スマホ触るんはやめるわ。
結果:スマホを触ることはやめたが、代わりに手近にあった無印良品の「チキン味ミニラーメン」に手を伸ばし、ぼりぼりと食べ始めた。
返答から行動を起こすまでの時間:1秒
反省点:伝達事項の最初だけが強く印象に残ったのか、あるいは指定された行動のうち一番簡単な行為を選択したのか、スマホを触ることをやめる、という行動に至ってしまった。

 今の状況のまま放置すると、どのような弊害があるのか伝えてみた。

セリフ⑤「この場所に置いたままにしてたらおしっこ臭くなるで?(チワワのトイレのすぐ横に置いていたため)」
返事:オッケー。でもふらふらや…。
結果:上のように言いながら、トイレから1mほど離れた場所に洗濯物カゴを引きずって移動させた。
返答から行動を起こすまでの時間:10秒
反省点:確かに伝えたデメリットを回避させたが、本来してほしい行動とは異なるものだった。

 メリットを提示してみる。

セリフ⑥「片付けないと、洗濯カゴに埋もれているこの綺麗な服、着られなくなるよ? 片付けたら服選びが楽しくなるで」
返事:綺麗な言葉や…。
結果:上の言葉をぽつりと呟いたかと思うと、そのまま寝入ってしまった。
返答から行動を起こすまでの時間:なし
反省点:あまりに流麗で魅力的で詩的な言葉を言ってしまったがために、同居人は心洗われ、うっとりしてしまったようだ。
※後日談であるが、上の言葉についてはかなり気に入ってくれたようで、積極的に自分から片付けをしようと思った、と語ってくれた。

結局、靴下1足も片付けてもらえなかったが、完全な失敗ではない

 仕事終わりで、かつ深夜でもあったため、これ以上しつこく言ってもお互い気分が良くないと思われたため、今回の言語化の試みは以上とする。失敗と思われるかもしれないが、実のところを言うと、これまで何度も何度も「洗濯物をなおして」と言ったものの、まったく行動せず3日くらい無視される、ということもあったため、今回のように行動してくれたことは、少なからず進歩だとは思った。実際に洗濯物を片付けるまでには至らなかったが、部屋の中に洗濯カゴを移動させてくれているので、平常時よりは早く片付けてくれそうだと期待感は高まっている。

 またそれと同時に、自分の思いを的確に伝えることの難しさを改めて感じることとなった。いつもは、こちらの不平や不満を並べるだけだったが、洗濯物を片付けることで相手自身が得られるメリットは何か? を考えるきっかけにもなった。本書では、言語化することで仕事でより良い実績を出すことや、物を買ってもらうなどにもフォーカスして有益な情報を教えてくれる。是非、言語化できていない95%を、1%でも多く言語化できるように本書から学んでみてほしい。

文=奥井雄義

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