BOOK OF THE YEAR 2023まもなく投票開始!昨年の文庫部門を振り返る——あの大人気エッセイが首位に!

文芸・カルチャー

公開日:2023/9/3

『いのちの車窓から』星野 源

『ダ・ヴィンチ』の年末恒例大特集「BOOK OF THE YEAR」。今年の投票はまもなく開始! ぜひあなたの「今年、いちばん良かった本」を決めて投票してみてほしい。ここで改めて、2022年の「文庫」部門にどんな本がランクインしたのか振り返ってみることにしよう。

1位『いのちの車窓から』星野 源

2位『流浪の月』凪良ゆう

3位『希望の糸』東野圭吾

4位『元彼の遺言状』新川帆立

5位『チュベローズで待ってる AGE32』加藤シゲアキ

6位『クジラアタマの王様』伊坂幸太郎

7位『四畳半タイムマシンブルース』森見登美彦:著 上田 誠:原案

8位『傲慢と善良』辻村深月

9位『落日』湊 かなえ

10位『ノースライト』横山秀夫

11位『ハリーポッターと炎のゴブレット<新装版>』(全3巻)J・K・ローリング:作 松岡佑子:訳

12位『きたきた捕物帖』宮部みゆき

13位『かか』宇佐見りん

14位『ツナグ 想い人の心得』辻村深月

15位『フーガはユーガ』伊坂幸太郎

16位『大名倒産』(上・下)浅田次郎

17位『スイート・ホーム』原田マハ

18位『魔眼の匣の殺人』今村昌弘

19位『心霊探偵八雲12 魂の深淵』神永 学

20位『一橋桐子(76)の犯罪日記』原田ひ香

 第1位は星野源のエッセイ『いのちの車窓から』が獲得。2017年に発売された単行本の文庫化である本作は、著者の思考ありのままであるがゆえに、書かれた当時の世相、カルチャー、空気感のパッケージともなっている。近年の世界の激変を経て、それらは圧倒的過去である。しかし同時に、現在へと至る何かを予感させる。それはもはや星野源という個を超えた、普遍的な記憶の共有と言える。時代の変わり目である今、その記憶は一層貴重なものではないかと思う。

 第2位には『流浪の月』が選ばれた。著者の凪良ゆうは、ボーイズラブと一般文芸の両分野で活躍していることで知られる。共通するテーマは、世間と折り合えない人たち。今年実写映画化された『流浪の月』では、加害者と被害者というレッテルを貼られた男女が、自分たちなりの関係性と居場所を見つけるまでの姿が愛おしい。

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『流浪の月』凪良ゆう

 第3位は、東野圭吾『希望の糸』。加賀恭一郎シリーズの最新作。加賀の従兄弟・松宮脩平刑事に焦点が当たり、シリーズの世界観がより広がりを見せ、ファンには嬉しい一冊だ。

『希望の糸』東野圭吾

伊坂幸太郎は『クジラアタマの王様』(6位)と『フーガはユーガ』(15位)、辻村深月は『傲慢と善良』(8位)と『ツナグ 想い人の心得』(14位)、それぞれ2作がランクイン。人気の証と言えよう。新川帆立の『元彼の遺言状』は4位、今村昌弘の『魔眼の匣の殺人』は18位に入り、ミステリー界の新たな旗手としての地位を確かなものにしている。前者はフジテレビ系「月9」枠でドラマ化され話題を呼び、後者は衝撃的デビュー作『屍人荘の殺人』のシリーズ第2作。
20位までのうち注目したい作品は、第33回三島由紀夫賞と第56回文藝賞を受賞した宇佐見りんの『かか』(12位)だ。一般的な括りを当てはめるならば、毒親と娘の小説と言えるかもしれない。しかしそれ以上に、自らを肯定できない不安定な自己に痛々しく苦しむ女の子の生き様を映した物語だ。虐待やいじめ、SNS依存、婚活などの社会問題・現代の世相を枠組みとしつつ、その先にある〝自己〟という存在を問う。それは、前述の『流浪の月』『傲慢と善良』『フーガはユーガ』、さらに湊かなえの『落日』(9位)など、ランクインした多くの作品に共通するテーマだ。現代の様々な矛盾や不平等に対しては、もはや目を背けるべきではない。それらと向き合いながら、私たちはどう生きればいいのか。それこそが今、私たちが求める物語なのかもしれない。

『クジラアタマの王様』伊坂幸太郎

『かか』宇佐見りん

文=松井美緒

※この記事は『ダ・ヴィンチ』2023年1月号の転載です。