心霊スポットを巡って悪霊退治…ではなく“捕縛”!?前代未聞の冒険譚『ダークギャザリング』

マンガ

更新日:2023/9/14

ダークギャザリング
ダークギャザリング』((C)近藤憲一/集英社)

 人には見えないものが見えてしまう――。俗に「幽霊」と呼ばれる、現世には存在しえない、もしくは既にその命を終えた類のものを。そんな稀有な経験を持つ人間は、果たしてどれほどいるのだろうか。そしてその苦しみに共感し、理解することができる「同じ側」の人間に出逢える確率は、奇跡と呼んでも差し支えないだろう。

 本作『ダークギャザリング』(近藤憲一/集英社)は、幽世(かくりよ)と呼ばれる黄泉の世界に住む「招かれざるモノ」を引き寄せてしまう大学生と、それを遥かに上回る霊媒体質を持つ少女がタッグを組み、ある目的を達成するために悪霊に立ち向かう最「恐」捕縛冒険譚である。

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現世と幽世をその眼に宿す少女

 中学時代に自身の体質が原因で、幼馴染の寶月詠子を心霊体験に巻き込んでしまった過去を持つ幻燈河螢多朗。それが原因で暫く引き篭もっていた螢多朗は、詠子や周囲の助けもありなんとか大学に通うまでに回復。更なる社会復帰のために家庭教師のアルバイトを始めることになるが、そこで初めて受け持った生徒が、詠子の従姉妹でのちに凸凹バディを結成することになる天才小学生、寶月夜宵だったのである。

決戦の舞台は全国の心霊スポット

 両親を事故で亡くし、母親の霊が悪霊に連れ去られる瞬間を目撃した夜宵。母を取り返すために自ら悪霊を捕縛して自身の傘下に置き、来るべき強大な悪霊との闘いに向けて全国の心霊スポットを巡るという壮大なプランを持っていたのだ(ちなみに悪霊退治に車で出発する際の合い言葉は「レッツ・ゴースト!」である)。

 この作戦のキーポイントは引き寄せ体質の螢多朗を悪霊のエサにすること。強大すぎる霊力を持つがゆえに悪霊に避けられる夜宵にとって、天然引き寄せ体質の螢多朗はミッションコンプリートに不可欠な最良のバディなのだ。はじめは嫌がっていた螢多朗だったが、自身と詠子の呪いを解くため、夜宵に協力することに。引き寄せの螢多朗、悪霊退治の夜宵、運転手の詠子のスリーマンセルで、各地の心霊スポットを巡っていく。

恐怖を渇望する、己の内に潜む感情の正体

 恐怖心を駆り立てられるおぞましい悪霊の描写や、理の外の存在との迫力の戦闘シーンも本作のたまらない魅力だが、この作品の肝はさらにその奥にあると筆者は感じている。それは、恐らく螢多朗や詠子自身すら自覚していない、心の内側にある感情が炙り出される瞬間の描かれ方にある。

 悪霊を恐れ遠ざけようとしているはずなのに、どこかで恐怖を求めている自分がいる。恍惚の表情を浮かべながら愛の言葉を発する彼ら=螢多朗や詠子の目には、何故か生気を感じられない。不意にそんな表情を見せられると、本当の恐怖とは、自分で抑えることのできない感情に自身が支配されることではないかと確信する。そう、それこそが「呪い」と呼ぶものに違いないのだ。そうして読み進める内に、やがて知らず知らずのうちに彼ら二人と同様に恐怖を欲しているあなたの表情もまた、生気を失っているかもしれない。

 未知の恐怖体験をゲットするために、本作を手に取ってみてはいかがだろうか。いや、最早手に取る以外の選択肢は、もう喪われていると言ってもいい。あなたはもう幽界の世界を覗きこみたいという、その欲望に支配されているだろう。迷っている暇はない。今すぐ心霊スポット目指して車に乗り込もう。そう、合い言葉は「レッツ・ゴー…スト!」

執筆:ネゴト / もり氏

※心霊スポットに行く際は周囲の環境に十分ご配慮ください


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