追放されたい理由はモテたいから? 優秀なのに追放されたがる残念な魔法使い×追放したくない勇者のドタバタ異世界コメディ!

マンガ

公開日:2023/8/31

モテたいので俺をパーティーから追放してください!
モテたいので俺をパーティーから追放してください!』(山田肌襦袢/GANMA!)

 異世界転生・転移モノに続き、今や小説や漫画内でもネタにされるほど浸透している追放・成り上がり展開。恵まれない境遇で虐げられた挙句、所属しているパーティー等を追放されるが、その先で幸せを勝ち取っていく、というのが主な流れのジャンルだ。こうした展開を好む人の多くは、一度は「自分も幸運に恵まれて無双したい!」「重圧から解き放たれて自由に生きたい!」と思った経験があるのではなかろうか。筆者も、無双には常々憧れている。

 そしてどうやら、そうした追放・成り上がりの知識は異世界まで波及しているらしい。『最強勇者パーティーは愛が知りたい』(山田肌襦袢/GANMA!)は、それをちょっとおかしな方向に捉えてしまった主人公と、そんな彼を追放しない優しい勇者たちの物語。プレイ中のゲームに登場する悪役遣り手婆(遊女たちの管理役)に転生した27歳OLの奮闘を描く、『27歳OL、異世界で遊女の管理はじめます』に続く山田肌襦袢の2作目となる本作品は、SNSに読み切り『モテたいので俺をパーティーから追放してください!』として投稿され、瞬く間に反響を獲得した注目作だ。

 本作品の主人公は、魔法使いとして勇者パーティーに所属しているイツカ・ダイホーマ。イツカには、ある成し遂げたいことがある。それは、勇者シャーユ・スーゴイゴイによってパーティーを追放されること。だが、イツカがいくら頼み込んでも、シャーユは追放を断固拒否。シャーユにとって、イツカはお荷物でも何でもなく、心から信頼している大事な仲間なのだ。イツカの魔法使いとしての実力は本物で、シャーユはそれを正当に評価している。

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最強勇者パーティーは愛(ラブ)が知りたい

 では、イツカはなぜ追放されたいのか。それは、「有名パーティーから追放されたら急にモテ始める」らしいという誤った情報を得たためだ。イツカは、パーティーの女性メンバーにモテまくり四六時中イチャイチャしているイケメン勇者シャーユに耐えきれず、自分もパーティーを追放されて成り上がり、すごいモンスターを倒し何やかんやしてモテたいと考えたのだ。

 しかしそんなイツカに対しても、シャーユは「イツカの魔法すごく綺麗なのになぁ」「僕はイツカが大好きなんだけど それじゃモテてることにはならない?」と、優しい顔で口説いているかのような台詞を並べる。魔王を討伐し、狂暴化していた魔族やモンスターも沈静化して、そのうえ種族間の軋轢を無くすなど多大な貢献をしたシャーユ一行は、イツカがモテないと不満を抱いていることを除けば理想の勇者パーティーなのである。

最強勇者パーティーは愛(ラブ)が知りたい

 追放からの成り上がり譚には、「ざまぁ」と呼ばれている追放した側、つまり悪役のシリアス展開が付きものだが、本作のメインキャラにはそもそも悪役が存在しない。イツカが勝手に嘆いているだけなので、ざまぁも起こらない。こんなにも追放される側――もとい追放されたがる側が残念な、微笑ましく笑える追放もの(?)がかつてあっただろうか。さすがGANMA!の著者プロフィール欄に「ボケとツッコミが好きです」と書いているだけある。読み進めるごとにツッコミを入れずにはいられない。

 また、読み切り版と連載版では内容が変わっている部分も多く、読み切り版と比較しながら読むのも面白い。連載版では、よりギャグ要素強めの展開になっている。途中、シャーユ一行のせいで仕事がなくなった、不完全燃焼だと嘆き暴走する別の勇者も登場して――!? また、このほかにもとにかく衝撃的な展開が多数待ち構えている。

 まだまだ物語は始まったばかりだが、優秀なのに残念なイツカの行方を、シャーユの苦悩を、そして予想の斜め上をいく異世界コメディを、引き続き楽しみながら見守っていきたい。

文=月乃雫

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