世界の“ふつうの家庭料理”をいくつ知ってる?ポルトガルのホットサンド、韓国のもやしスープなど30ヶ国の料理を集めた新作レシピ本

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公開日:2023/10/2

世界の朝ごはん、昼ごはん、夜ごはん  みんな、何を食べてるの?
世界の朝ごはん、昼ごはん、夜ごはん みんな、何を食べてるの?』(ニキズキッチン/グラフィック社)

 スーパーに置いてある中華だしを使えば、誰でもそれっぽい中華料理を作れる。無印良品には各国エスニック料理の手作りキットが売っているし、キンパの冷凍食品まで並んでいる。そして都会に出れば、世界各国の料理が気軽に食べられる……。

 今の日本はそんな状態で、各国の料理には日常に溶け込んでいるものも増えている。メジャーな料理なら、レシピ本を買わずともネットで調べれば大抵のものは作れるだろう。

 そんな時代でも、2023年8月に発売された『世界の朝ごはん、昼ごはん、夜ごはん みんな、何を食べてるの?』(ニキズキッチン/グラフィック社)は非常に面白く読めた本だった。

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 著者の「ニキズキッチン」は、ヨーロッパ、アジア、オセアニアから来日した日本在住、料理上手の講師、総勢約45名が所属する料理教室。本書はそうした料理の教え手たちが、30の国の“普段のごはんやおやつ”を通して、その国ならではの食文化をレシピとともに紹介する内容だ。

 30の国には、イタリア、フランスといった古くから日本に専門料理店がある国もあれば、ハンガリー、ブルガリア、スリランカ、ニュージーランドといった、名物料理がパッと浮かばない国もある。

 一方で料理のチョイスは、あえて珍しいものばかりを取り上げているわけでもなく、メジャーなものばかりが並んでいるわけでもない。

 たとえば「アメリカ東部」のページでは、アップルパイやマッシュポテトといった超メジャーな料理もあれば、食べきれなかったターキーの骨で作る「ターキー・ヌードル・スープ」や、潰したバターナッツかぼちゃにマシュマロなどを載せてオーブンで焼く「バターナッツスクワッシュ・キャセロール」といった現地の家庭ならではの料理も登場する。

 そのバランスが非常に絶妙で、現地の一般家庭にしばらくホームステイしながら料理を学べたような感覚になる本なのだ。

 また台湾が好きな筆者の妻は、台湾のページで出てきた茶葉蛋(チェーイエダン。お茶の煮玉子)に反応。「この煮玉子、向こうのコンビニにはレジ横で普通に売っていて、入るといい匂いがするんだよね。でも食べたことがなかった!」と喜んでいたが、そうした現地の生活レベルに近い料理が載っている本……ともいえるだろう。

 なんでも本書は、日本に住む外国人の方々を対象に、故郷の1日の食事風景や人気の料理を事細かく書いてもらうアンケートからスタートしており、そのボリュームは1000ページを超えたそう。超労作であり、非常にていねいに作られた料理本なのだ。

かぼちゃ入りのミルク粥に、ヨーグルトたっぷりのチキンスープ

 筆者も実際にいくつかの料理を作ってみた。まず抜群に美味しかったのが、ロシアのかぼちゃ入りお粥「カーシャ・リーソワヤス・ティークボイ」だ。

カーシャ・リーソワヤス・ティークボイ

 ロシアでは穀物を煮たお粥のような料理「カーシャ」が朝ごはんの定番。ロシア語で人との相性が悪いことを「この人と一緒にカーシャは作れない」と表現するような、国民的な料理だそうだ。

 このレシピでは牛乳で米を炊き、かぼちゃに加えて砂糖もバターも入る。……と材料を列挙しただけで、あま~くてまろやかなお粥が想像できると思うが、実際に幸せで優しい味わいだった。「ロシアの人たちは寒い冬にこんな料理で暖を取っているのかな」と想像しながら美味しくいただいた。

 次はポルトガルのホットサンド「トースタ・ミスタ」。具材はハムとチーズという、ごくごく普通のホットサンドなのだが、使うパンがバタールというのが面白い。ポルトガルでは全粒粉で作ったカンパーニュのような大きなパンを使い、専用のホットサンド機で焼くのが定番だそう。

トースタ・ミスタ

 筆者の家のホットサンドメーカーは小さすぎてパンが少しはみ出てしまったが、バタールを挟んで焼くのは初めてで新鮮。多くの国にある同じような料理でも、少しだけ食材や作り方が違う……というのも面白いし、普通のレシピ本にはなかなか出てこない料理だろう。

 お次は韓国の豆もやしスープ「コンナムルクッ」。「韓国では家庭科の授業でもやしの茹で方を習う」という逸話も登場したので、日本の味噌汁みたいなものなのかな……と想像しながら作った。

コンナムルクッ

 豆もやしの美味しいだしを味わうスープで、味は極めて素朴。シンプルなレシピだけに、何度も作る中でコツが掴めてきそうな料理だと感じられた。

 最後はブルガリアのチキンスープ「ピレシュカ・スパ」。ブルガリアと聞くと「ヨーグルト!」とステレオタイプな反応をしてしまうが、実際にこのスープでは大量のヨーグルトを使用。ブルガリアでは「ヨーグルトは日本の味噌のようなもの」なのだそう。

ピレシュカ・スパ

 レシピでは、最後にパプリカパウダーと油を加え、さらにレモンを搾って食べる点が面白い。日本人が飲み慣れたスープは「だしの旨み」や塩加減が美味しさの決め手となるものが多いが、このスープはまろやかな口当たりとほのかな酸味が主役。美味しさの質や基準自体がふだん食べている料理と違うのが楽しかった。

 なお本書に出てくるレシピは、近所のスーパーの食材だけで作れるものも結構多い。日本で手に入る食材を使って、日本では食べたことがない料理を自分で作って食べられる……という体験が楽しい1冊だ。

文・写真・料理=古澤誠一郎