常に身近にあるという危機感を! 巧妙なマインド・コントロールの手口から自身と大切な人を守るために

暮らし

公開日:2023/11/21

マインド・コントロールの仕組み
マインド・コントロールの仕組み』(西田公昭:監修/カンゼン)

 先日、とある喫茶店で耳にしたことだ。隣のテーブルの大学生が、正面に座る先輩と思しき相手と会話していた。耳を傾けると「夢は何?」「やりたいことある?」と先輩が聞いており、大学生が愛想笑いを浮かべるなかで、次第に話題は「絶対に稼げる」という流れになっていった。どうやら仮想通貨がらみの儲け話の勧誘だったようだ。

 それがまっとうな話だったのかは定かではないが、こちらの想像を多分に含みつつも、その大学生を思って手に取った一冊が『マインド・コントロールの仕組み』(西田公昭:監修/カンゼン)だった。本書はタイトルの通り、人の考えを意図的に操る、マインド・コントロールとは何かを、実際の事例も交えて詳細に伝える書籍だ。自身や周囲の人の防衛手段としても役立つかもしれない。

似て非なる「洗脳」と「マインド・コントロール」の違い

 マインド・コントロールと混同されるのが「洗脳」だ。実際、本書を読むまで筆者も、明確な違いが分からなかった。

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 本書によると、洗脳は相手を「物理的に拘束」し「拷問」を加える過程を踏む。ねらいは、相手がすでに抱いている「信念やアイデンティティ」を壊し、新たな考えを「注入」「定着」させることだ。攻撃される相手は拷問の恐怖から逃れようとして、次第に、自身の考えを変えざるをえなくなる。

 対して、マインド・コントロールは相手への物理的な拘束や拷問的な手法を用いない。「嘘や隠ぺい」で情報を操り、自分の意思で新たな考えを抱いたと思わせる。いわば、自身を取り巻く情報への「現実感」を変化させる手法だ。

身近なリスク「マルチ商法」の巧妙な勧誘手法

 そんなマインド・コントロールの罠は、社会のいたるところに存在する。典型例は「マルチ商法」だ。

 マルチ商法とは、自身が加入した販売組織で仕入れた商品の他人への販売、もしくは、友人などの入会あっ旋によるマージンで利益を得る方法である。

 本書にある、巧妙な勧誘手法のひとつが「ABC勧誘」だ。勧誘側はAの「アドバイザー(説得役)」とBの「ブリッジ(仲介役)」で、段階を踏んで、Cの「カスタマー(勧誘のターゲット)」を入会へと促す。

 最初、BがCに近づき交流を深める。次第に、ターゲットの夢や悩みへと話題が移り、「すごい人がいるからぜひ会ってみてほしい」などの誘い文句で、CをAに橋渡しするのがおおよその流れらしい。冒頭で述べた喫茶店でのやり取りもこの一端だったのかもしれない。

 入会してしまった後は、活動を重ねるにつれて「自己投資が必要」「大きなお金を動かす練習」などの謳い文句につられ、散財するケースも。ターゲットはあくまでも自身の意思で決断し、途中で止めようにも「これまでの努力が無駄になる」という怖さが勝り、抜け出せなくなる危険性もある。

 マインド・コントロールをきっかけに引き起こされた事件は世の中に数多くある。「詐欺」「テロ組織」「カルト宗教」と、本書ではただならぬ言葉が並ぶが、そのすべてが私たちの身近にあるということを述べている。ほんのちょっとしたきっかけや気の迷いなどでそれらに触れてしまう可能性があることを、肝に銘じておくべきだろう。

文=カネコシュウヘイ

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