『君たちはどう生きるか』全603枚の絵コンテ集。オール手描きの絵コンテから宮崎駿の情熱がほとばしる

文芸・カルチャー

更新日:2024/1/24

スタジオジブリ絵コンテ全集23 君たちはどう生きるか
スタジオジブリ絵コンテ全集23 君たちはどう生きるか』(宮﨑駿/徳間書店)

 アニメ映画の巨匠・宮﨑駿監督が一度表明した引退を撤回して制作した映画『君たちはどう生きるか』。今年7月に公開されるやいなや大きな反響を呼び、現在も多くの映画館で上映が続いています。そんな本作の絵コンテ集『スタジオジブリ絵コンテ全集23 君たちはどう生きるか』(宮﨑駿/徳間書店)も絶賛発売中。宮﨑監督の情熱が詰め込まれた本書を紹介します。

絵コンテの情報量の多さがすごい!

 宮﨑監督の作品はいつも文章による脚本が存在せず、絵コンテが脚本、資料など多くの役目を担うとのこと。本書はそんな監督手描きの絵コンテ全603枚が収録されています。絵コンテというとかなりラフな鉛筆書きをイメージしていましたが、本書の絵コンテの多くは背景までしっかり描かれ、さらに色も塗られています。家を描くときは木枠や瓦などまで書き込まれ、蛙の大群が主人公・眞人のからだ中にまとわりつくシーンでは映画で観た時のぞっとする不気味さがすでに絵コンテの段階で感じられました。

 さらに本書には絵だけではなく監督手書きの文字もぎっしり。それも絵の説明ではなく、カメラワークや作画の方法、効果音から台詞まで、緻密に書き込まれているのです。時にはカットの秒数や、画面を横切る鳥が何羽かまで。宮﨑監督の頭の中ではこの段階ですでにここまで映画が仕上がっていたのかと驚きます。

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監督の脳内を覗いたような感覚になれる

 メインタイトル直後の眞人が改札を抜けるコンテには「この少年が主人公ですのカット」とあるなど、監督がどういう意図でこのコンテを描いていたのかがわかる部分も。さらに夏子の部屋の概念図(見取り図)や槍や羽など小道具の全体図も描かれており、私は映画を観てから本書を読んだのですが、もう一度映画を観たくなりました。描き込みの多い部分には「たいへんですが描くしかありません」など、くすっと笑ってしまうようなコメントがあるのも、監督の素の部分が覗けたようで嬉しい気持ちになれます。

 宮﨑監督自身の少年期を重ねた自伝的ファンタジーと言われる『君たちはどう生きるか』。宮﨑監督が今回初めて向き合った、自身の深い内面に関わる部分とそのメッセージは、例えば後半の大叔父の台詞の部分に何度も消しゴムをかけて書き直したような跡が見られるなど、絵コンテからもほとばしっています。私はこの絵コンテ集を読んで、映画とまったく同じところで涙してしまいました。

「この世は生きるに値する」と引退会見で語った宮﨑監督。その言葉の重みがしっかりと詰まった一冊です。

文=原智香

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