アンリ・ルソーは“ヘタうま”だった!? 世界の名画に潜む知られざる雑学

文芸・カルチャー

公開日:2023/12/14

つい人に話したくなる名画の雑学
つい人に話したくなる名画の雑学』(ヤスダコーシキ:著、田中久美子:監修/KADOKAWA)

 ドラマや映画、アニメの感想を語り合う機会は多い。「あのシーンが…」「あの演技が…」と友だちと言い合うのは、時間も忘れるほど楽しい。では、「絵画」となるとどうか。格式高い分野で、愛でようにもハードルが高いイメージがある。

 しかし、絵画の入門書『つい人に話したくなる名画の雑学』(ヤスダコーシキ:著、田中久美子:監修/KADOKAWA)を読むと、イメージが変わった。本書は、世にある名画の時代背景、味わい方を優しく軽快な口調で教えてくれる一冊。名画が「笑い」「怒り」「泣ける」「愉しみ」のカテゴリ別に分けられており、絵画をいかに楽しむかは自由で、人の視点や発想で、無限の面白さを見出せると気が付く。

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玄人たちに愛された“ヘタうま”なルソーの名画

 フランスの有名画家、アンリ・ルソー(1844~1910年)による『フットボールをする人々』は「笑い」に分類されている作品で、意外な発見のある名画だ。

つい人に話したくなる名画の雑学

 キャンバス上では、4人の「おっさんたち」が「ラグビー」に興じている。しかし、よく見ると「登場人物の顔は髭と丸刈りの2種類だけ」で、彼らの足も「少し宙に浮いているように」見えるという。

 人によっては「ヘタな絵」と思うかもしれないが、じつは、ルソーは元々「税関の職員」として働く「素人画家」だった。本書いわく「技術的には稚拙」で、多くの作品を手がけたのは本業の引退後。それでも、セオリーによらないルソーの作品は「ゴーギャンやピカソ」のように、天才芸術家たちに好まれたとは驚く。

慈愛深いキリストが珍しく「狂戦士モード」に

 キャンバスから、登場人物の「怒り」がひしひしと伝わってくる名画もある。ギリシャの画家、エル・グレコ(1541~1614年)による『神殿から商人を追い払 うキリスト』は、本書いわく「狂戦士モード」のキリストを描いた作品だ。

つい人に話したくなる名画の雑学

 キリストが激怒したのは「父なる神を祭る神殿」を「悪徳な両替商や捧げものの売り子」が占拠したためだ。周囲の「商人」を前に「革製の鞭」を手にして暴れ回る光景を「普段優しい人は怒らせると怖いという典型例」だと言う、著者の“ツッコミ”も冴える。

 なお、この1枚を描いたエル・グレコは信心深く、作品の「8割以上」が「宗教画」だった。ギリシャ出身で本名は「ドミニコス・テオトコプロス」だったが、他国では発音しづらかったのか「あのギリシャ人」を意味する通称「エル・グレコ」を使っていたという。

 タイトルのとおり、つい人に話したくなってしまう名画にまつわる雑学の数々。いざ読むと、キャンバス上の登場人物だけではなく、名画を生んだ画家にもドラマがあると気が付く。本書を片手に、美術館へ足を運んでみるのも一興だ。

文=カネコシュウヘイ

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