地図のせいで国土が減少?「地図は現実世界のコピーではない」を、いろは坂や宮下公園などの実例をあげて詳しくひもとく1冊

文芸・カルチャー

公開日:2023/12/31

誇張、省略、描き換え…地図は意外とウソつき
誇張、省略、描き換え…地図は意外とウソつき』(遠藤 宏之/河出書房新社)

 我々が移動の際の道案内として利用している地図。そこに実は「ウソ」が混じっていることをご存じだろうか?

 その実情を学べる書籍が『誇張、省略、描き換え…地図は意外とウソつき』(遠藤 宏之/河出書房新社)。著者は地図会社で測量士として働いた経験も持つ地理空間情報ライターで、地理専門情報誌『GIS NEXT』副編集長。つまりその道のプロである。

日光の「いろは坂」の地図に隠されたウソとは?

 では、実際どんな「ウソ」が隠されているのかというと、たとえば日光の「いろは坂」に代表される、ヘアピンカーブが連続する“くねくねした道路”を描いた紙地図がその一例だ。

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 尺度が大きい地図(より細部が拡大された地図)の場合は、そうしたヘアピンカーブの形状も正確に記載することはできる。しかし尺度が小さくなると、ヘアピンのようなカーブが続く道は、道路同士が重なって見づらくなってしまう。

 そうした場合、従来の地図の世界では、全体の形状を損なわない程度に簡略化して描写することが認められていた。これは「総描(そうびょう)」と呼ばれる技術だそうだ。

 同じようなことは海岸線を描く地図でも起きる。たとえば、狭い湾や入り江がノコギリの刃のように複雑に入り組んだ「リアス海岸」は、細部を拡大すればするほど、そのギザギザ状の海岸線を正確に描写できる。しかし縮小して大きな範囲を描写する場合は、その細かな凹凸は省略されてしまうわけだ。

 そのため、見る地図の尺度が変われば海岸線の形状は変わるし、海岸線の長さも変わる。そして、海岸線の形状が変われば、日本の国土の面積も変わってしまう。実際、面積の算出に使われる地図の尺度が大きくなったことで、日本の国土の面積は減少したのだそうだ。これは驚きの話である。

「地図は現実世界のコピーではない」

 本書を読むと、この例のような省略や誇張、描き換えなどが、地図では頻繁に行われていることが分かる。本書の冒頭近くには「地図は現実世界のコピーではない」という見出しがあるが、我々が地図を見る際に忘れがちなその事実を、この本は数々の具体例を提示しながら改めて気づかせてくれるのだ。

 本書ではそのほか、「商業施設を階下に備えた宮下公園が国土地理院の地図で空白として描かれてしまうのはなぜか?」といった今っぽい題材も考察。GPSの普及が地図の世界に与えた変化の話や、自動運転の実現のために必要な「高精度三次元地図データ」の話題などは、テクノロジーの読み物として非常におもしろい。たとえば先述の「総描」のような技術は、GPSの登場や電子地図の一般化により排除されてしまったそうだ。

 また、「我々がよく見るメルカトル図法の世界地図だと、ロサンゼルスは東京の真東に見えるけど、地球儀で見ると北東方向にあるのはなぜか?」といった地理の基本的な題材も丁寧に取り上げているので、地図についての基礎知識がない人でも楽しく読めるはずだ。

文=古澤誠一郎