貧乏生活だって悪くない!格安賃貸暮らしの漫画家が描くギャグエッセイ『貧乏漫画家は野花のように美しく生きたい』

マンガ

PR公開日:2023/12/28

貧乏漫画家は野花のように美しく生きたい
貧乏漫画家は野花のように美しく生きたい』(竹書房)

 2022年に50周年を迎えた竹書房が記念企画として行った「竹書房コミックエッセイ大賞」の部門賞も受賞した、おもながさんが描くコミックエッセイ『貧乏漫画家は野花のように美しく生きたい』(竹書房)の単行本が発売された。

 作者であるおもながさんは、5年前に上京し、漫画家を続けている。当作品は、ほぼ事故物件の格安賃貸から抜け出せないながらも、たくましく愉快に生きる作者の姿が描かれた漫画だ。

貧乏漫画家は野花のように美しく生きたい

 貧乏暮らしの中でも楽しく暮らすと聞くと、質素な生活を美徳として楽しんでいるように思えるが、決してそういうわけではない。他人からのマウントに対してはかなり敏感に反応するし、貧乏であることに卑屈になっているような描写もある。

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貧乏漫画家は野花のように美しく生きたい

 それでもこの作品が面白いのは、そんな赤裸々な作者が、存分に生活を楽しんでいるところである。貧乏だから楽しいのではなく、貧乏だけど、それでも楽しい、なのだ。

 正直、彼女の日常で起きていることは、事実だけを聞いたら結構ひどいエピソードばかりだ。一人だけサークルに勧誘されなかったり、お化け屋敷でメイクもしていないのにお化けに間違われたり、ファッションに気合を入れたら周りから引かれたり、イケメンとマッチングしたと思ったらゴミ部屋に連れ込まれたり……。些細な出来事ながらも、普通だったら結構落ち込むようなことだらけだ。

貧乏漫画家は野花のように美しく生きたい

 しかし、この作品には一切悲壮感というものがない。終始カラッとしていて、彼女のたくましい生き様につい笑ってしまうのだ。

 また、エッセイ漫画というのは作者の眼差しを通して生活を垣間見るような面白さがあるが、この作者に関しては、作者自身もちょっと異端なのであるところが面白い。なかなか、車に轢かれて車の方を心配する人はいないだろうし、何も言わずに他人のスカートに手刀を決める人もいないはずだ。

貧乏漫画家は野花のように美しく生きたい

貧乏漫画家は野花のように美しく生きたい

 そんな彼女だからこそ、日常で巻き起こる出来事がここまでユニークに描けるのだろう、とも思う。変質者に対して「自分の可愛さが評価された」と握手を返すような彼女だからこそ、どのエピソードも気兼ねなく笑ってしまうのだ。

 漫画家の貧乏生活を描いたコミックエッセイが評価され、今後彼女の生活はどのように変化していくのだろうか。格安賃貸生活から抜け出しても、きっとこれからも彼女の生活はたくましく愉快なものとして続くような気がする。そして、それをまたコミックエッセイで読みたい。そう感じるような一冊だった。

文=園田もなか

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