“人狼”が“市民”の味方? 人間の顔を奪い、その人物に成りすます人狼が村をかき乱すサスペンス×ダークファンタジー『狼とリボルバー』

マンガ

PR公開日:2024/2/21

狼とリボルバー
狼とリボルバー』(鈴木ゆう/白泉社)

 見た目も、声も、その笑顔も、大切な「あのひと」と何も変わらない。
だけど、何かが、ちがう。
かすかに胸を刺す小さな違和感。
それは段々と確信を帯びていき――

 じわじわと心を支配していく恐怖を、確かな画力とスリリングな展開で描くダークファンタジー『狼とリボルバー』(鈴木ゆう/白泉社)。紅玉いづきの小説『ミミズクと夜の王』(KADOKAWA)のコミカライズを担当した鈴木ゆうによるオリジナル作品だ。

 この世界には「人狼」と呼ばれる、人間の顔と命を奪い、その人に成りすます怪物がはびこっている。警察官として田舎の村を守っていた主人公オトギは、あるとき人狼に襲われた。絶体絶命な状況を救ってくれたのは別の人狼のルーク。彼は村を守り、襲ってきた人狼を見つけるために協力すると申し出る。心から信頼することはできないものの、人狼を見つけ出すという目的のために、ふたりは共闘することになったのだ。

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狼とリボルバー p10

狼とリボルバー p15

狼とリボルバー p19

 そもそも本作の人狼は、なぜ顔を奪うのか?答えはたった一つ、愛されるためだ。第1巻に登場する人狼は「いっぱいあいされたいです わたしは」「この顔じゃ愛されないなら もういらないや」と、とにかく愛に執着している姿が描かれていた。人々から嫌われ、恐れられてきたからこそ、人間として生きて愛されることに、憧れを超えた感情があるのだろうか。

 だから彼ら人狼は、顔を奪った人間に成りすまし、完全にその人物を演じきっている。大切なあの人が、もう「その人」ではなかったら――。想像もしたくないような恐怖と戦いながら、それでも村の人々を守るために、わずかな情報をかき集めてオトギは人狼の正体に迫っていく。

 また、オトギはかつて、自身が人狼に家を教えてしまったことで、家族を亡くし、今の村へ迎え入れてもらったという過去がある。「自分のせいで家族は死んだ」「なんで一人だけ生きている?」と、自分と人狼を強く憎んで生きてきた。人々に愛されたい人狼と、自分すらも愛せないオトギの対極の関係が、何とも切ない。

狼とリボルバー p20

狼とリボルバー p23

 だが、そんな彼女がなぜ、人狼であるルークを信じられたのか。そこにはやはり、ルークの人狼らしからぬ行動があるのだろう。村人を襲うどころか、オトギとの約束を守って誰も傷つけない姿に人間らしさすら感じる。初めこそ信用できないと言い切っていたオトギも、人狼ながらどこか敵視できず、1巻終盤ではルークを信じると決断をしたのだ。

 そして1巻では、長年人狼被害がなかった村で起きた人狼被害を描くため、オトギたち以外の村人たちの心情も激しく映される。何年も前から村にいるオトギを「よそ者」と言い、腫れ物扱いをし始める者もいれば、人狼容疑者を皆殺しにしろ、と言う者、過去のオトギと同じく「自分のせいで人狼に殺されてしまった」と悔いる者……村人全員の心情と行動を整理して理解するには、一度読むだけでは物足りなかった。二度、三度読むことで「あのシーンはこの描写のことだったのか!」と繋がり、何度でも違った視点で楽しめる。加えて、当たり前だが、作中人物の命は一つしかない。そんな彼らの緊迫感もまた、読者を魅了するだろう。

 サスペンスとアクションが入り交じり、読者までをも疑心暗鬼にしてしまう『狼とリボルバー』。1巻で完全にお互いの信頼を得たオトギとルークが、今後の人狼にどう立ち向かうのか。気付かぬ間に成りすまされてしまうかもしれないので、本作から目が離せない。

文=ネゴト / たけのこ

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