2024年10月TVアニメ化決定『君は冥土様。』! 元・殺し屋がメイドになって男子高校生と同居するハートフルストーリー

マンガ

公開日:2024/3/28

君は冥土様。
君は冥土様。』(しょたん/小学館)

 家族にはいろいろな形がある。血が繋がっていて一緒に暮らしている、あるいは血縁でも自立するなどして離れて暮らしている形。赤の他人が結婚して夫婦になるというのも、もちろん家族である。お互いをいつくしみ、思いやれる関係であれば、それは家族と言っていいだろう。

 本記事では、何の関係もなかった赤の他人同士が、一緒に暮らすことになった家族を描くマンガ『君は冥土様。』(しょたん/小学館)を紹介する。TVアニメが制作中で、2024年10月に放送予定の話題作だ。

 訳あってほぼ一人暮らしの男子高校生・横谷人好(よこや ひとよし)の家に、突然メイド服を着たとんでもない美女・シュエがやって来た。彼女は「自分をここで使用人として雇って欲しい、得意なことは“暗殺”である」という。実は、シュエは裏の世界でその名を轟かせた、最強クラスの元・殺し屋だったのだ……。

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 本作は、孤独だった二人が“普通”で“楽しい”家族になっていく物語である。

元・殺し屋のメイドと男子高校生のドキドキ同居ストーリー

 とある人づてで紹介されて来た、というシュエの唐突さと不穏さに戸惑う人好。しかし一度は追い返したシュエに、彼は交通事故に遭いそうになったところを救われる。その恩もあり、住み込みでメイドになってもらうことにする。人好は、シュエの純粋さと人間性を信用し、ヤバそうではあるが妙に同情を誘う彼女を放っておけなくなったのだ。

 ただ、シュエは家事ができなかった。できないというより経験がないようだった。掃除と聞けば敵を片付けることだと思い、家事以前に一般的な生活で必要なことができない。当たり前だが彼女が「前職」で培った専門技術や体術は“普通”の生活には役に立たないのだ。ただ、唯一食材を“切り刻むこと”は芸術的ではあったが……。

 感情があまり表に出ないシュエも、さすがに落ち込む。人好と二人で食卓を囲むことになったが、味がよく分からない。彼女は今まで味の良し悪しを判断できず、食事の“楽しさ”や味・メニューにも興味をもっていなかったのだ。だが、このとき彼女のなかに、二つの感情が芽生えた。

 まず人と食卓を囲むことと人好に対して、あたたかみを感じたのだ。シュエは命じられるままに戦ってきた。そしてこの場所にも、主人に言われたからやってきた。そこには自分の意思がなかったのだ。ただ、シュエは食事と人好をあたたかいと感じ、その気持ちを自分で肯定できた。まるで“普通”の人間のようにである。

 そしてもうひとつ、美人だが無表情で陰のあるシュエに、見て分かる情緒が生まれたのだ。出されたとんかつにソースをかけて食べた彼女は、おそらく生まれて初めて味に感動した。これが、本作で欠かせない要素となる「勝田惣菜店の自家製ソース」と、シュエとの出会いである。笑うところだ。ただこのシーンは、とにかく感情がダダもれになったシュエが可愛すぎるのと、彼女が前へ進んだことを表す物語のポイントのひとつであることは記しておきたい。のちのエピソードでも語られるのだが、人は美味しいから幸せになるのではなく、幸せだったから美味しく感じられたのである。

 シュエは欠けた人間であった。“普通”ではなく“楽しむ”こともできず、それらを望むこともなかった。人好の家に来るまでは。元・殺し屋のメイドはこうして再生していく。

シュエは雪になり、二人は家族に。物語はラブコメ&読者が真顔になる展開へ

 シュエが仕えることになった人好についても紹介する。彼もまた、欠けたものがある少年だ。親とは微妙な関係で、別々に暮らす明るい妹・李恋(りこ)はいるものの、基本は孤独である。だからこそ捨てられていた犬を「置いていかれた気持ちが分かる」と言って飼うことにする。そもそも行き場がないようだったシュエを家に招いたのも、彼自身の寂しさを埋めようとする行動のようにも読める。こんな人好に、シュエは少しずつわがままを言うようになる。拾った犬に「あげもち太郎」と名付けた彼に、彼女はこう言う。

“私も人好さまに名前を付けて頂きたいです。”

 シュエが生まれたときの天気にちなんで、人好は「雪さんはどう?」と答える。彼女は一瞬固まる。偶然だが、シュエとは“雪”という意味であった。しかもこの名は、過去の辛い記憶と結びついていたのだ。ただ彼はこう続けた。「俺さぁ、雪が好きなんだよね」。

 名前が同じままで別のものになった瞬間、彼女は相好を崩した。人好は「“普通”に笑えるんだ」と照れる。このシーンも物語序盤のポイントである。ここで彼が口にした無自覚な「好き」が何かに変わるのかどうかは読んでみてのお楽しみだ。個人的には、ぜひ単行本4巻までは一気に読んでみてほしい。

 ぶっとんだ設定でありながら、序盤はコメディ調で思春期男子の好意や学校の様子、バトルアクションなどが描かれていく。エンタメてんこ盛りの展開に思わずニコニコしてしまう。だが油断大敵だ。さらりと描かれていた説明が伏線になり、秘密も徐々に明かされていく。雪の過去にかかわるキャラクターたちも登場する。気がつくとあなたは真顔になって読んでいるかもしれない。

 とは言え、きれいなメイドさんと暮らす健康な思春期男子の感情は揺れ動く。家族になってから始まるラブコメにも期待しつつ、人好と雪が求める“普通”で“楽しい”生活を送れるかどうか、こちらもあたたかく見守っていきたい。

文=古林恭

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