【第30回電撃小説大賞《大賞》受賞】選考委員騒然の問題作!「驚愕の一行」で全てがひっくり返る、恐ろしくも美しい異形の物語

文芸・カルチャー

公開日:2024/2/24

竜胆の乙女 わたしの中で永久に光る
竜胆の乙女 わたしの中で永久に光る』(fudaraku/メディアワークス文庫/KADOKAWA)

 むせ返るような花の香に混ざる、夥しい血の匂い。美青年の絶叫と、抉られていく皮膚、化物たちの高笑い。震える琴の音……。目の前で繰り広げられる地獄遊戯から、目を逸らしたいのに、逸らせない。ぞっとするような、うっとりするような、逃げ出したいような、それでも見ていたいような、不気味な感情が胸の内に渦巻いていく。「何なんだ、この世界は」。そう叫び出したくなった先、物語は驚きの流転を遂げる。

竜胆の乙女 わたしの中で永久に光る』(fudaraku/メディアワークス文庫/KADOKAWA)には、何度驚かされたか分からない。この奇妙な物語は、第30回電撃小説大賞《大賞》受賞作。応募総数4,467作品の頂点に選ばれた作品だというが、今までの電撃小説大賞受賞作と比べても、これ以上の問題作はないだろう。これは間違いなく荒れる。世の中に強い動揺を与える。これほどまでに強くそう確信させられた作品は他にはなかった。

 時は、明治の終わり。物語は、ある17歳の少女が、病死した父の家業を継ぎ、「竜胆(りんどう)」の名を襲名することから始まる。生まれたときから東京で暮らしてきた少女は、亡き父が金沢でどんな仕事をしていたのか何も知らない。聞けば、それは夜の訪れとともにやってくる「おかととき」と呼ばれる異形の存在をもてなすというものらしい。だが、初めての宴で少女が目をしたのは、「おかととき」が商物と呼ばれる三人の美青年たちの肉体を弄ぶ、あまりにも残虐な「遊び」だった。どうして父はこんな商売を始めたのか。少女は正体不明の異形の存在に翻弄されながら、それでも立ち向かおうとする。

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 鮮やかに浮かび上がる悪夢のような世界に、いつの間にか飲み込まれ、包み込まれてしまう。竜胆とともに、耽美的で艶やかな、底なしの地獄にどんどん落ちていくのを感じ、恐怖に体が震える。だが、この物語の魅力は、泉鏡花を彷彿とさせるような、その偏奇的な世界観だけではない。物語が終盤に差し掛かった頃、まるで突風が吹き荒ぶかのように「ある一行」が唐突に現れる。それが一瞬でこの世界を一変させる、そのことがあまりにも衝撃的なのだ。全てが吹き飛んだ先、見えてきた景色には思わず目を見はる。まさかこの物語がこんな変貌を遂げるだなんて……。出版決定後、選考委員と編集部にネタバレ厳禁の緘口令が敷かれたというのも納得。この物語は絶対にネタバレ禁止。上手く言い表せなくて歯痒いが、この物語がもたらす衝撃は何物にも代え難い。

「自らのかさぶたを剥がし抉り出した血で書かれたのではないかと錯覚するような痛みさえ感じました」

 電撃小説大賞選考委員のひとり、アニメーション脚本家・小原信治氏は、この物語をこう評しているが、本当にその通りだ。なんという痛みを伴う物語なのだろう。だが、間違いなく言えるのは、これは希望の物語であり、救いの物語だということ。「途方もない地獄を描いているはずなのに?」と疑問に思うだろうが、そこに隠された真実に触れた時、あなたにもその意味が分かるだろう。

 読み終えれば、万感が胸に迫り、静かな感動が広がっていく。恐ろしいこの物語に、こんなにも爽やかな気持ちにさせられると誰が予想できただろうか。この衝撃と、この爽快感を、真正面から味わえて本当に幸せに思う。これは、間違いなく最高の読書体験だ。怖いけど、目を逸らせない地獄遊戯と、その先に隠された真実。「ある一行」を経て、何度も光り輝くこの問題作に、あなたも是非とも、驚かされてほしい。

文=アサトーミナミ

『竜胆の乙女 わたしの中で永久に光る』詳細ページ
https://mwbunko.com/special/rindou/

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