オリジナルの要素が満載すぎ! SNSで話題になったコミック版『追放されたチート付与魔術師は気ままなセカンドライフを謳歌する。』

マンガ

更新日:2024/3/5

追放されたチート付与魔術師は気ままなセカンドライフを謳歌する。 ~俺は武器だけじゃなく、あらゆるものに『強化ポイント』を付与できるし、俺の意思でいつでも効果を解除できるけど、残った人たち大丈夫?~
追放されたチート付与魔術師は気ままなセカンドライフを謳歌する。 ~俺は武器だけじゃなく、あらゆるものに『強化ポイント』を付与できるし、俺の意思でいつでも効果を解除できるけど、残った人たち大丈夫?~』(業務用餅:漫画、六志麻あさ:原作、kisui:キャラクター原案/講談社)

 少し前に、あるマンガが期間限定で全話無料を読めることになった。SNS上では、「チー付与」と略されるその作品にまつわるキーワードがトレンドを席巻しており、覚えている人もいるかもしれない。

 正式タイトルは『追放されたチート付与魔術師は気ままなセカンドライフを謳歌する。 ~俺は武器だけじゃなく、あらゆるものに『強化ポイント』を付与できるし、俺の意思でいつでも効果を解除できるけど、残った人たち大丈夫?~』(業務用餅:漫画、六志麻あさ:原作、kisui:キャラクター原案/講談社)。本作は(ほぼ)同名の小説のコミカライズ。そのタイトルからは「追放された主人公が秘めた能力を発揮し、逆襲に転じる」という王道ファンタジーだということが読みとれるだろう。

 このコミック版が冒頭に書いたように話題になったのは、そのオリジナリティにある。原作付きであることと矛盾するようだが、本稿では原作小説との違いと作品の魅力をお伝えしようと思う。

 主人公は、武器や防具などに“強化ポイント”を与えて強化できる付与魔術師のレイン・ガーランド。あるとき彼は、所属していた冒険者ギルド「王獣の牙」のギルドマスターから「ギルド中の武器や防具は全部強化された。もうお前は必要ない」と宣告される。

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「チートな魔術師が追放されて成り上がる」王道ストーリーに付与された魅力

 ギルドを追い出されたレインは、仲間たちの裏切りにやるせない気持ちを抱え、去り際に仲間たちのアイテムに付与していた強化ポイントを全回収する。

  そのポイントを手持ちの剣に付与してみると“銅の剣+10000”という、聖剣レベルのありえないステータスになった。この剣は一振りで地を砕き、周囲を吹き飛ばし、建物を倒壊させてしまう。

 実はレインはチートな付与魔術師だったのである。付与魔法はギルドの仲間たちのアイテムに数ポイントずつ振り分けていたため、本人を含めて誰もその付与能力のチートさに気づいていなかったのだ。かくして、追放された付与魔術師はチートな防具と武器を携え、新たな仲間との出会いを経て、気ままで超絶無双なセカンド冒険者ライフを始めようとする――。

 この冒頭のあらすじは、本作も原作小説も大まかには同じである。だが、話はここからだ。まずこのコミック版を読むと、ちょいちょいギャグが挟まれてコメディ風味が強いと感じる。キャラクターは名前が同じでも中身が違う。レインは仲間思いの冒険者ではあるものの、原作小説とは別人のようにおバカで奇行が目立つ。常にふざけているのだ。本作の笑えるところはほぼ主人公のせいである。また、彼と出会う女冒険者・リリィは、あるクエストで仲間を全員失い、そのトラウマから冒険に出られなくなっているのだが、キャラクターと設定は原作小説と別物だ。また、リリィのせいで姉が死んだと思い込み、彼女に恨みを抱くマーガレットという冒険者が登場する。ただ原作小説に登場するマーガレットにはリリィとの遺恨はない。

 さらに、コミック版のオリジナルで、ひとクセもふたクセもあるキャラクターたちが登場する。まず見た目は下町にいそうな中年女性だが、色々な意味で最強キャラの“暗殺の母”。そして元「王獣の牙」の冒険者で“半分”と呼ばれる男。「グレンダが自分の半分を作っている」というのが口癖の彼が率いるのが、若手冒険者集団“半分グレンダ”、通称“半グレ”であった。彼らがレインに深く関わってくる。

 そして、原作小説にはない「剣と魔法の世界に現代的な科学技術が存在する」という設定がある。この世界には銃や自動車やパチンコ機器などの科学技術の産物が存在するが、それらは魔法に触れると異常なほど劣化してしまう。逆に魔法を使う冒険者が科学技術の産物に触れると魔力を消耗する、という法則があるのだ。この法則に相対する「魔科両立」を目指す研究は、世界の秘密に迫るものであり、レインの運命に大きく影響してくる。じっくり読むと、この設定の伏線や情報が数多くあることに気づくはずだ。

 このように、コミック版は原作小説とは異なる雰囲気で、キャラクターも設定もほぼオリジナル。そのいずれもが魅力的で、魅力の掛け算で独創的なファンタジーストーリーに仕上がっているのだ。

原作者も全力応援! 気ままで自由奔放すぎるコミカライズが無双する

 キャラも設定も別物であるため、原作小説とは今のところ異なるストーリー展開をみせている本作。2024年2月時点では、チートだったレインを待ち受けている苦難と、“半グレ”の若者たちが命がけで自分たちの存在意義をみせつけてくる“不良少年の青春”もののようなエピソードが描かれている。

 これだけ原作から変え、まったく別の物語になっていること自体もSNSで話題になる理由だ。読者として少々心配にはなるが、原作者の六志麻あさ氏は「小説版と漫画版で内容が99割程度違うので、ご注意ください。」と笑えるコメントをしており、コミカライズが更新になるたび、嬉しそうに応援するSNS投稿を行っているところを見ると、このコミック版の行く末を、六志麻氏も楽しみにしているようなのだ。

 なお、六志麻氏は現在も小説投稿サイトに作品を掲載し、そのサイトとSNSで自分の言いたいことを発表し続けている。また、氏は120冊以上の著書があり複数のコミカライズ経験もあるベテラン作家であることは記しておきたい。

 今、ファンタジー界隈でこれだけ自由気ままにオリジナル展開を描き、読者に受け入れられて無双しているコミカライズはあるだろうか。百聞は一見ならぬ一読にしかず。ぜひ原作小説と併読してこの面白さを体感してもらいたい。

文=古林恭

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