1970~80年代の「シティ・ポップ」音楽がリバイバルした背景に迫る。東京都立大学で開催された人気講義が書籍化!

文芸・カルチャー

公開日:2024/3/12

シティ・ポップ文化論
シティ・ポップ文化論』(日高良祐:編集/フィルムアート社)

 1970~80年代、「シティ・ポップ」。こう聞いてどんなイメージをするでしょうか。はっぴいえんど、シュガー・ベイブ、荒井由実(松任谷由実)氏など、代表的アーティストを挙げればきりがないですが、国内外のミュージシャンやリスナーから再発見され、シティ・ポップというジャンルが世界的に認知、そのブームが2010年代から今日まで継続しています。

 2022年に東京都立大学で開催され大きな話題となった連続講義を書籍化した『シティ・ポップ文化論』(日高良祐:編集/フィルムアート社)は、多角的視点でそのブームの分析を試みている一冊です。

 冒頭、音楽ジャーナリストの柴那典氏の章では、シティ・ポップが一過的、瞬間的な「バズり」のような広まり方ではなく、比較的長期間をかけて、模倣や文脈の改変も含めながら広まっていく「ミーム」的要素があることを指摘しています。

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 柴氏はシティ・ポップの定義に言及する際に「KnowYourMeme.com」という英語のミームデータベースの記述を参考していますが、本書の各所で、海外のシティ・ポップブームがいかに根強いかが紹介されています。

興味深いのは「始まりは一九七八年だ」と書いてあることです。ここに書いたユーザーがそう認識しているということなんですが、加えて「シティ・ポップは一九七〇年代後半から八〇年代の日本の音楽ジャンルであり、ポップ、ジャズ、ファンクなどを融合している」などと、英語で説明されています。
また、ジャンルが人気を得たのは二〇一〇年代である、とも書かれています。

 全く日本にゆかりは無いけれども、なぜか懐かしさを感じる。そんな魅力がシティ・ポップにはあるといいます。そこにはどんな背景があるのでしょうか。ひとつは、シティ・ポップが生まれたのは、ウォークマンの登場によって「音楽が気軽に持ち運び可能になった時代」だったということです。

音楽は家で高価なステレオで聴くのがいい、というような考え方があり、携帯型カセットレコーダーというのは録音をするために使うものだ、という常識があったわけですが、ウォークマンは高音質で持ち運び可能な再生専用機であり、それゆえ人々の聴き方を変えたのです。一九八一年に出た二代目モデルWM-2は二五〇万台を売り上げました。

 また、歌詞よりも「音そのもの」が重視されるようになった時代でもあるといいます。その前には(もちろん日本国内で様々な音楽の流行がありましたが)フォークソングのような、主義や主張が言葉としてこめられた歌が流行る傾向にあったといいます。「東京○○」といったように、「どこについての音楽か?」が明確な、曲の所属地がわかるような音楽も人気だったといいます。

 そのトレンドに反発するように、その後のシティ・ポップの時代には、無所属な音楽が潜在的に求められるようになりました。音楽社会学、ポピュラー音楽研究を専門とする小泉恭子氏の章では、「サウンドスケープ」(音風景)という概念が紹介されています。

「見たくない光景」は目を閉じればシャットアウトできますが、耳は塞ぐことはできても目のように閉じることはできないので、「聴きたくない音」をシャットアウトすることはかつて困難でした。そこに、先述したような「再生場所を問わない音楽」が登場しました。

 今では当たり前になった「音楽のながら聴き」が普及した時代のサウンドスケープも含めた世界観が、シティ・ポップが世界中の人々に「懐かしさ」を感じさせている源泉なのでは?と筆者は感じました。

 全9講は実に幅広く本稿では紹介しきれませんが、そういった都市論から、はたまた東南アジアのポップの話まで展開します。2022年の人気講義、追体験するのは今からでも決して遅くはありません。

文=神保慶政

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