フック船長が海賊になったのはなぜ? “ディズニーヴィランズ”に焦点を当てた、もうひとつの『ピーター・パン』

文芸・カルチャー

PR更新日:2024/5/31

ディズニーヴィランズ もうひとつの『ピーター・パン』 キャプテン・フックの誕生"
ディズニーヴィランズ もうひとつの『ピーター・パン』 キャプテン・フックの誕生」(ローリー・ラングドン:著、岡田好惠:訳/講談社)

「ディズニーヴィランズ」という言葉をご存じだろうか。ディズニー作品に登場する悪役(villain)を集めた名称で、いまやテーマパークでのショーやグッズ販売も展開される大人気コンテンツとなっている。主なメンバーはマレフィセント(眠れる森の美女)、アースラ(リトル・マーメイド)、ジャファー(アラジン)、クルエラ・デ・ヴィル(101匹わんちゃん)などがいるが、ここに忘れてはならない重要な人物が「ピーター・パン」に登場するフック船長である。

 悪役でありながらクールさとコミカルさを兼ね備え、強い個性と信念を持った生き方が魅力のディズニーヴィランズ。魅力的だからこそ気になるのは、「彼ら彼女たちのこれまでの人生」である。どんな生い立ちで、どんな幼少期を過ごしてきたのか。そして何がきっかけでヴィランズとしての道に進んでいるのか…。

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 それぞれのアニメ映画作品では語られていないその理由に迫る小説が、「ディズニーヴィランズもうひとつの◯◯」シリーズだ。その第3弾となる「ディズニーヴィランズ もうひとつの『ピーター・パン』 キャプテン・フックの誕生」(ローリー・ラングドン:著、岡田好惠:訳/講談社)が2024年5月に刊行された。

 フック船長の本名はジェームズ・バーソロミュー。ピーター・パンとの出会いはジェームズが12歳の頃に両親と乗った旅客船だった。悪天候により運悪くこの船は沈没してしまうが、その時に起きたある出来事がピーター・パンを恨むきっかけとなる…。

 17歳になったジェームズは身内の後ろ盾がなくなったことでイギリス上流階級の名門校に通えなくなり、逃げるようにして海賊船に乗ってしまう。そう、これがフック誕生の瞬間である。海賊の一員として働き出したジェームズは人生を変えるべく、“ポントゥスの剣”という伝説の宝剣を探すようになるが…?

 物語の主軸はこの“ポントゥスの剣”をめぐるジェームズの冒険であるが、注目してほしいのはジェームズの恋物語である。同じ海賊船に乗るシェリーとリエラという2人の女性からジェームズは想いを寄せられる。そう、彼はモテるのだ…! そしてジェームズはリエラに恋をする。が、この恋は訳ありで前途多難な恋となる。なんとも大人っぽい展開に、え、あのフック船長にこんな過去があったなんて…と顔が火照ってしまう。特に因縁のピーター・パンと再会した際に言うこの台詞にはドキドキが止まらなかった。

 ジェームズは、大声で言い返しました。
「ぼくは、リエラを愛しているんだ。」
 ピーターはそっぽを向き、ナイフを鞘に納めると、つぶやきました。
「愛か。ひどく大人びた感情だな。」
 ジェームズも、そっぽを向いて言い返しました。
「愛なんて、おまえには永遠に理解できない感情だろうよ。」
(中略)
「世の中にはな、子どもとゲームをするより、ずっといいことがあるんだ!」
(171ページより)

 冷静と情熱を秘めたこの発言は、子どもであり続けるピーター・パンとの対比が色濃く描かれた印象的なシーンであった。決して楽しいことばかりではなかった「恋」を否定するのではなく、「いいこと」として受け止める姿は大人のカッコ良さが光る。そう、本作にはフック船長のカッコ良さが詰まっているのだ。

 ここにはおバカでドジなフック船長はいない。優雅な振る舞いをし、頭は良いが女性への対応に一喜一憂する、ごく普通の若者がいるのだ。その上で彼は運命を受け入れ、海賊船の船長として生きる道を選んでゆく。ディズニーヴィランズの魅力のひとつである信念ある行動の原点をぜひ本作でじっくりと味わってほしい。

文=ネゴト / Micha

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