一流詐欺師×へっぽこ詐欺師 ふたりの女詐欺師の絆と復讐を描くバディミステリー! 賛否両論&衝撃のラスト

文芸・カルチャー

PR公開日:2024/6/13

詐欺師と詐欺師"
詐欺師と詐欺師』(川瀬七緒/中央公論新社)

 どうしても放っておけない人がいる。なんだか危なっかしくて、頼りない。昔の自分を見ているような気持ちにさせられる。手を差し伸べたら、こちらは損するばかりだと分かっているのに、関わらずにはいられない。もし、一流の詐欺師が、そんな人間と出会ってしまったとしたら……。それは、地獄への片道切符。情にほだされたら最後。今まで経験したことのないような危険な事態が待ち受けているに違いないのだ。

詐欺師と詐欺師』(川瀬七緒/中央公論新社)は、そんな百戦錬磨の美人詐欺師と、へっぽこ女詐欺師のバディミステリー。乱歩賞作家・川瀬七緒が描くこの物語は、とにかく刺激的。ふたりの悪女の活躍に、ハラハラさせられっぱなしだ。

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 主人公は、海外で多額の金を荒稼ぎし、一時的に日本に帰国した、超やり手の美人詐欺師・藍。一生遊ぶ金には困っていないのに、彼女はある時、政治資金パーティーで、隙ばかりの女詐欺師・みちると出会う。のどから手が出るほど金を欲しがっているみちるに話を聞けば、金が必要な理由は、親の仇を探すためらしい。その仇とは、世界的大企業・戸賀崎グループの筆頭株主、戸賀崎喜和子。70を超える喜和子を、「むごたらしく殺してやりたい」という、みちるは、その復讐計画を吐露するのだが、一流の詐欺師・藍からすれば、それはあまりにも杜撰。関わらない方がいいのに、藍は、みちるのことがどうしても放っておけなくなり、いつの間にか、彼女に協力することになる。

「悪どい連中から金を巻き上げる」というポリシーは共通しているが、ふたりの詐欺師としての実力差は明白だ。たとえば、初対面の政治家を騙す場合、藍は、身につけているものの価値を一瞬で把握し、「ドイツ語表記のデイデイト、1930年代のものですね」と、たった一言、代々受け継がれてきたのであろう腕時計の価値を指摘しただけで、その男を虜にしてみせた。「政治について教えてほしい」などと陳腐な理由で迫ろうと考えていた、みちるとはレベルが違う。みちるには、知識もないし、おまけに感情で突っ走ろうとする。そんな彼女に対し、藍は一流の詐欺師としての流儀を教えていく。悪どい金持ちと同じ土俵に立つために、金を湯水のように使う藍の姿にみちるは反発するが、藍の実力を知るにつれ、そのスキルを学ぼうとする。反発しながらも、信頼を寄せる。そんな師弟関係のような姉妹のような、ふたりのやりとりには、思わず微笑まされる。

 藍は、みちるの突破口だ。藍は、みちるが見過ごしてきた事実を、いとも簡単に明らかにしてみせる。その手口はあまりにも鮮やかで、私たちをこれ以上ない爽快な気分にさせてくれるのだ。だが、みちるの探す人物は、なかなか手強い。70を超える喜和子は認知症を患っているらしいが、どういうわけか、どこにいるのか謎。それに、彼女の側近は、かなり取っ付きにくい。難関ばかりの険しい道のりをふたりはどう進んでいくのだろうか。

 まるでジェットコースター。どこに連れていかれるかも分からず、次から次へとスリルあふれる展開が訪れる。幾度となく、ゾクッとさせられる。そして、ラストはあまりにも衝撃的。まさかこんな展開になろうとは……。ふたりのこれからを想像して、呆然。このラストは賛否両論を巻き起こすに違いない。悪女バディは目的を果たすことができるのだろうか。ふたりの女詐欺師の絆と戦いを、復讐の行方を、ぜひともあなたも、その目で見届けてほしい。

文=アサトーミナミ

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