あやかしたちと呪術と剣劇とが入り混じった本格時代活劇

ライトノベル

公開日:2011/10/22

ガガガ文庫 あやかしがたり

ハード : PC/iPhone/iPad 発売元 : 小学館
ジャンル: 購入元:電子文庫パブリ
著者名:渡航 価格:324円

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著者の渡 航(わたり わたる)氏が若干21歳で上梓したデビュー作。第3回小学館ライトノベル大賞ガガガ文庫部門でガガガ大賞を受賞。

江戸を舞台にした本格時代冒険活劇小説で、「あやかし」(妖怪、怪異)たちが世にうごめく中、剣の修行中の身である主人公・新之助が、怪しい者たちの存在を察知できる能力によって、事件に引き込まれていきます。

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「悪い子だとお化けがくるよ!」
などと、子どものころに親から言われたことはないでしょうか。
「お化け」というのは便利な単語で、怪物や妖怪、肉体を持たない幽霊などを一緒くたに表現できます。「お化けがくる」と脅かされても、怪物がやってくるのか、妖怪なのか、幽霊なのかがわからないんですよね。「なにやら得体の知れないものがくる」からこそ、怖いのかもしれません。

それはそれとして、本作では主に「あやかし」(妖怪、怪異)たちが跳梁跋扈しています。今では、水木しげる先生などによって、不気味さと同時に愛らしさも備えたキャラクターとして人気を集めていますね。個人的には、植物の「あけび」にも似た、ストーキングを生業とする「べとべとさん」が妙に好きだったりします。

日本固有の神道は、森羅万象に神の存在を見る、いわゆる「八百万(やおよろず)の神々」の考え方です。そのために、日本人には、自然や長くそこに在るものに対して恐れて敬う気持ち、つまり「畏怖(いふ)の念」が備わっている、ともいわれます。どこにでも神様はいるので、例えば自然災害が起こらないように山や森、河川などを崇拝したり、トイレの神様に感謝したり(?)するのですね。

妖怪は、「畏怖の念」を捧げるための対象として、具現化された存在です。つまり、「あやかし」殺しは「神殺し」ともとれるわけで、ジブリ映画「もののけ姫」では呪われるなど手痛いしっぺ返しを食らったりするわけですが、この映画では逆に、自然を人間の手でコントロールできるようになった、と前向きに解釈することもできます。奥が深いです。

ちなみに、ゲームの世界では、チェーンソーで神殺しをしたり、某最後のファンタジーでは「神殺しの紋章」というアイテムがあったりして、考えてみると物騒ですが。

とにかく、人にできないことを平然とやってのけるため、そこにシビれて憧れてしまいそうになるヒーローが活躍する冒険譚。
いろいろと考えを巡らせたり、巡らせなかったりしながら、堪能してみてください。


時代の雰囲気がよく伝わってくる、著者の筆力

「やったろうじゃんかこの野郎」…キャラクターに親しみを感じる

あやかしと縁を持つ者も異物として排除される…

季節外れの怪談話もまた怖い

もののけを見る力は、存在の力を見る力?