日常生活にも応用可能かも? ずらしてぼかしてかわしながら生き抜く人々

更新日:2011/9/5

政治家の日本語 ずらす・ぼかす・かわす

ハード : PC/iPhone/iPad/WindowsPhone/Android 発売元 : 平凡社
ジャンル:趣味・実用・カルチャー 購入元:eBookJapan
著者名:都築勉 価格:540円

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スペインの政治ウォッチングがとても楽しくなった、と思っていた時期がありました。政治家たちは多弁で議論好き。議論の仕方もあの手この手、パフォーマンスはもとより、なにしろ演説が上手。日本の政治家に比べて見ごたえがあると思ったのです。
  
が、在住が長くなるにつれ政治も政治家も、私自身も変わり、段々と感想も変わってきました。「どこの国の政治家も同じ!!」というのが現在の持論。

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スペイン語は日本語より明快でも、先行き不安感満杯の政治経済の中では、この国の政治家もやはりたくみに「ずらす」「ぼかす」「かわす」をしています。
  
そんなときに、タイトルからして魅力的なこの1冊を発見。読了するまでにいくつものセンテンスを書き出したほど、明瞭で気持ちのよい説明が満載でした。
  
政治家のあの不可解な言葉を「あぁ! そうだったのか!」と解読してくれます。何より「どうしてあんなに政治家はまどろっこしい言葉遣いをするのか」という基本の疑問が解けたような、少なくとも彼らの「言葉の海」の読解の紐解き方を教わった気持ちで読後は爽快。
  
著者は「印象に残る事例を拾い集めて、言葉の技術としての政治の実際を学ぼうとした」といいます。大平首相時代に失敗した消費税導入を、長い時間をかけて「事態の中心を慎重にずらして」ゆきながら、税制改革を実現してゆく過程。「ずらし」の名人だった竹下首相。「左翼崩れ」の元新聞記者の秘書が仕上げていった田中角栄の強烈な印象を残す言表の数々。「ブッチホン」や「ボキャヒン」など思わずクスリとしてしまうキーワードを残した小渕首相時代。「なにもしないのも政治」といわんばかりの、小泉首相の言葉少なな政治…。
  
政治を語る本ではありますが、「第1章 よぶ 命名と領有」、「第2章 ずらす 反転と対決」など、なかなか他では見られない分析方法。著者は「言葉の選択や使用そのものが政治」と主張し、その観点から彼らの言葉を分析しました。「公衆の支持を獲得する競争が政治」であるゆえ、政治家たちはより広範の人々を包括しうる玉虫色の言葉の羅列を用いて、支持者を増やし、逃げ道を作り、政権維持を目指してゆくわけ。政治家の言葉は民衆にとっては「うそつき」「建前」と見られがちですが、読了後、彼らの言葉の世界も、弁護士や医者独特の言葉の世界があるのと同じ作用が働いているんだなと納得できます。
  
著者は信州大学経済学部教授。専門家の詳細に渡る観察は、説得力あり、感心することしきり。読み応え大の1冊。

「嘘つき」は政治家の代名詞である、と。そうそう、みんなそう思っているのに、何故彼らの嘘は治らないの?

省庁の名前を変えるって、どこの国でもするんですねぇ。スペインも政権変わるたびにいろいろ新しい省庁が出てきます

消費税の導入、バブル時期。ようやく10年15年と経って、あの時期を客観的に観察できるのは興味深いこと

日本語の壮大なるジレンマが「有事」と「自衛隊活動」に集中している (C)都築勉/平凡社