今月のプラチナ本 2011年12月号『マンゴスチンの恋人』 遠野りりこ

今月のプラチナ本

2011/11/5

マンゴスチンの恋人

ハード : 発売元 : 小学館
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:Amazon.co.jp/楽天ブックス
著者名:遠野りりこ 価格:1,620円

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今月のプラチナ本

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?

『マンゴスチンの恋人』

●あらすじ●

高校2年の季里子は、誰かを好きになりたいが、恋ができないことに悩んでいた。恋愛話に沸き立つクラスの女の子たちに馴染むことも、男の子からのアプローチに応えることもできない自分に劣等感を感じていたある日、ひとりの女性と出会ってしまう……(「マンゴスチンの恋人」)。ほか、冴えないオタク少年の相談をきっかけに彼に興味を持ち始める美少女・実森(「テンナンショウの告白」)、援助交際をしていた男に脅迫されトラブルに巻き込まれる葵(「ブラックサレナの守人」)、同性愛者であることを打ち明けられない教師・梢(「ヒガンバナの記憶」)のそれぞれの恋、ゆれる気持ちを綴った連作短編集。あらゆる世代の心を刺激する、注目の恋愛小説。

とおの・りりこ●1975年、東京都生まれ。2008年、「朝顔の朝」で第3回ダ・ヴィンチ文学賞読者賞を受賞。『朝に咲くまでそこにいて』(同作品改題)でデビュー。11年、『マンゴスチンの恋人』で第12回小学館文庫小説賞受賞。ほかの著書に『工場のガールズファイト』(09年)がある。

『マンゴスチンの恋人』
小学館 1575円
写真=下林彩子

編集部寸評

青春恋愛小説で、同時に人間の本質的な生を描く

教壇に立つ教師が、世界の本質についてさりげなく主人公たちに語りかける。そんな場面が活きた物語が好きだ。宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』しかり。坂口尚の『石の花』しかり。岩井俊二の『打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?』しかり。それは、未成熟というレッテルが貼られた柵に閉じ込められて苦しむ主人公たちに、一瞬の世界の解放をもたらしてくれるから。本書でも、生物の板東先生が効いている。彼女が授業で語った「自然界の性は本来多様で人間も同じだ」そして「同性愛は異常ではなくて少数派なのだ」という話は、いったい何人の生徒を救ったことだろう。教師の影響力は無限で、受け止める生徒たちの未来もまた無限なのだ。苦しい恋の物語として読むことのできる4編は、越えられないものを越えようと、もがいてあがく人間たちの生の物語ともとれる。その両立は困難だったはずだ。遠野りりこは、ついにここまで来た。本当にうれしい。

横里 隆 本誌ご隠居兼編集人。山岸凉子『日出処の天子』〈完全版〉第1巻が11月22日に発売します。この作品だけは〈完全版〉であなたの手元に残してほしい!

誰もが、何かのマイノリティ

本書を読んでいて思い出されるのは、10代のころの〝いたたまれなさ〞。描かれているのはセクシャルマイノリティだが、10代の誰しもが、自分のことを何らかのマイノリティだと感じていたのではないか。音楽や読書の趣味、恋愛についての考え方、どんな人間でありたいかというヴィジョン――自分にしっくり来るものは誰にも理解されず、みんなが共有しているものを自分は理解できない。そんな感覚がもっとも鋭敏になるのは、誰かを好きになったときだった。この本にはあのころの〝いたたまれなさ〞が満ちていて、だが決して絶望的ではない。いたたまれないのは自分だけではなくて、誰もが、誰かと触れ合いたいと願っている。そのことが静かに納得できるから、いつか触れ合える瞬間を、待ち望むことができる。20代になっても30代になっても、いたたまれない気持ちになる日はまだまだあって、そんなときには何度でも本書をひらきたくなるにちがいない。

関口靖彦 本誌編集長。10代のいたたまれなさと、かすかな希望を描いた作品として、マンガ『見かけの二重星』〈つばな 講談社KCDX〉も素晴らしかったです

この軽さこそが高校生のリアリティ

同性愛という言葉が認知され、性を飛び越えた存在として活躍する著名人も数多くいる現在であっても、いざ自分が同性に性的に惹かれてしまう現実に直面したら、多くの人はやはり悩み戸惑うだろう。人を好きになってもストレートに好きといえない。その前に立ちふさがるさまざまな葛藤。恋愛の行き着く先が見えないという不安。本書に登場する高校生たちの苦悩はまだほんの序章だし、語り口が極めてライトなこともあってさらっと読めてしまうが、それこそがリアルで著者のねらったところなのだと思う。男女間の恋愛をダイレクトに薄っぺらく描くことで、マイノリティの恋愛の苦しみはより際立ってくる。所収された4編のうち、2編目の「テンナンショウの告白」はやや異色でインターセックスの問題を扱っているが、彼の悩みを前面に押し出すのではなく、性的な魅力とは別のところでつながる関係が描かれており、青春小説として爽やかな読後感だった。

稲子美砂 『アントキノイノチ』は小説・映画、併せて味わってほしいと思えた作品。映画のストーリーは原作と少し違えど世界観は通じていて、役者陣もすばらしかった

恋愛小説嫌いな人に読んでほしい

「十代の後半、その時期人は、サナギのようなものだと思う」最終話「ヒガンバナの記憶」の中の一文だ。登場人物たちはみな、自分のことを周囲とは違う変容を遂げる、別種のサナギのように感じている。彼らの物語は、はじめての恋物語と微笑ましく見守るにはあまりにも切ない。名前のついてしまった関係に違和感を覚え、名前のつけられない強い感情にとまどう。大人になると追求せずごまかしてしまう、そんな関係や感情を、まっすぐ見つめる彼らの想いが胸に刺さった。

服部美穂 今号のコミックDVは『チャンネルはそのまま!』。何度も読んでるのに毎回笑える! 佐々木倫子さんは天才!!

きらきらと芽吹く性

女と男の分かれ目はどこにあったのだろう。瀬尾さんの幼馴染の彼氏は、気がつくと男になっており、自分もいつの間にか女になっていた。自身の体の変化に悩む内気な雪村くんと、〝ヤリチン〞な彼氏との対比も面白い。また、本作で描かれる女の子たちの会話や独り言が絶妙で、思わずくすりと笑ってしまうのだ。その言葉の中には、大人では気がつかない真実が隠されていたりする。卑怯で狡猾で馬鹿な彼女らが愛おしい。ぼくにもこんなきらきらしたドラマが欲しかった。

似田貝大介「ゴーストハント」完結! 感無量です。読者からの質問にずばりお答えいただいた「小野不由美Q&A」に注目!

空の青さも清々しい

「17歳が、いちばん自由で無敵だ」と感じていた頃を思い出した。何の根拠もなく、自分の絶対だけを信じていた、あの頃。「だって、ロイカが好きってことがあたしの中で一番確かなものなんだもん」。「テンナンショウの告白」の主人公・実森の言葉が、思春期の女の子特有の〝ゆらぎ〞をもって、大人になった私の心を揺さぶってくるのだ。その不安定な切なさと、「好き」という強い気持ちは、やっぱり彼女たちの武器なんだと思う。なんか真っ直ぐで、いいなぁ。

重信裕加 先日試写で観た映画『しあわせのパン』があまりにもすばらしく、余韻にひたっていたら、気づくと5 kmも歩いてました

ミモがかわいすぎる!

「ロイカ好きって、どれくらいの感じ?」というセリフに、どれだけのワクワクが内包されているか。ミモにとって、大げさでなく奇跡の瞬間だったのではないかなぁ、と思う。大人になってからも、似た価値観を持つ人に出会うことはあるし、とてもうれしいことだけど、中学、高校の頃に出会っていたら、それはもう無敵な気分になるのでは。自分の感じるドキドキやワクワクを共有できる相手、その出会いは、もしかしたら恋人よりも大切な出会いかもしれない。

鎌野静華 カンニング竹山さん単独ライブ「放送禁止2011」へ。〝目撃〞したことのない人は、来年絶対行くべきです

いつか思い出になるのだとしても

物語の題材としては、奇抜な新しい設定があるわけではないと思う。年上の同姓に惹かれ一線を飛び越えることも、精一杯カモフラージュした秘めたる思いがどうしてもほころびてしまうことも。でも、彼らのみずみずしさやもどかしさを、著者は巧みに丁寧に描写する。いつかこれらの恋は思い出になるのかもしれないけれど、きらめきは、たまには取り出し撫でたり眺められるようになった苦味と、ずっと心の中に残る。恋を知るすべての人が、ぎゅぅんとくる本だと思います。

岩橋真実 大学のサークル仲間で1年生のときから付き合っていた二人が先日結婚。とても佳い式でした。末永くお幸せに!

「好きなもの」でつながる奇跡

自分が好きなもの、嫌いなものがハッキリしてくる10代後半。「私はこんなことが好き」と主張したい反面、「みんなと同じものを好きになれないけど大丈夫かな」という相容れない感情を、著者は丁寧に掬い取って描いてくれる。なかでもミモと雪村の関係がいい。「好きなものが一緒」の相手からは、自分の考え方や存在まで肯定された気になる。大人になった今でさえ、好きなもので人とつながる瞬間は得難い。思春期真っ只中、この関係はとくに無敵なのだ。

千葉美如 峰なゆかさんの『アラサーちゃん』が11月18日に発売! 乙武洋匡さんとのモテトーク対談も必読ですよ〜

キラキラしすぎて辛いほど

自意識爆発系の妄想は高校生が名手(本書の主人公然り)である。まだ男でも女でもない彼らの「リアリティはつかみかけているんだけれども根本的に間違っている感じ」の妄想が、じつに微笑ましいのだ。本当は何になりたいわけでもないし、どこか満ち足りないような感じがするけどその根拠はわからない。体内に充満するモヤモヤを何にぶつけたらいいかノーアイデアだったあの頃に本書を読んでいたら、この年になって一人カラオケに行くこともなかったのだろうか。

川戸崇央 前号のダ・ヴィンチ発売→川戸≒カツ丼の認識が流布→カツ丼屋についてよく聞かれる→でも僕食べちゃだめ……

さまざまな「好き」の形

セクシャルマイノリティをテーマにした短編集。といっても、重くなく、どの作品もみずみずしい。年上の女性に恋する女子高生とその周囲の人間たちのちょっと変わった恋模様が描かれていくが、青春期の揺らぐ心や、自分を出せないイライラ感が、〝イマドキ〞のリアリティある言葉で吐き出される。彼女たちの甘酸っぱさから教えられたのは「好き」という気持ちは切なくて、絶対で、常識など凌駕してしまう、ということ。ピュアな気持ちを少し、取り戻せた気がする。

村井有紀子 『謎とき〜』&次号の特集で連日取材。行きたかったライブを飛ばしまくった反動で、家にCDが山積み……反省

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