なぜ「恋愛難民」になってしまうのか? 恋愛逃避型、コミュ障型、共依存型、刺激追求型…

恋愛・結婚

公開日:2017/7/21

『隠れアスペルガーでもできる幸せな恋愛』(吉濱ツトム/ベストセラーズ)

 まず初めに、読者に断りを入れておこう。本書は、恋愛マニュアルではない。この『隠れアスペルガーでもできる幸せな恋愛』(吉濱ツトム/ベストセラーズ)は、「恋愛難民もトレーニングで救われる」ことをテーマにしており、大きく分けて「恋愛逃避型」「コミュ障型」「共依存型」「刺激追求型」の4つの恋愛パターンを基礎に、その傾向と対策を示している。しかし、いわゆるQ&A方式の字引的で簡便な構成をしておらず、序章のケーススダディから順番に読み進めていく必要がある。

 これはとても大事なことで、後半になって出てくるトレーニングを実践するにしても、自身を客観視して取り組むのでなければ、トレーニングの初期でつまずいて嫌気が差してしまうと、そこから先に進めなくなってしまう。アスペルガーとは何か、なぜ自分は恋愛下手なのかを順を追って学ぶことにより、恋愛テクニックを着実に自分のモノとしていくのだ。

 そもそも、「アスペルガー症候群とは何か?」といえば発達障害の一種であり、「脳内の器質的障害を原因とする発達異常」のうち、言語障害や知能の遅れといった自閉症でないものだそうだ。ただし時代によって、あるいは医療現場などによっても分類や名称は揺れがあるため、自閉症のみならず注意欠陥多動性障害(ADHD)や学習障害(LD)などとの境界は曖昧であるらしい。いずれにせよこれらは後天的、すなわち生活環境や親の躾の影響ではなく生まれつきの障害でありながら、言語障害や知能の遅れなどが無いと、単なる性格として周囲から認識されがちなため、本人も気づかないまま苦しんでいると考えられる。

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 発達障害カウンセラーとして活動している著者自身もアスペルガーだそうで、知識を得て改善法を習得するまでは「典型的な症状」に苦しんだという。本書によれば真性のアスペルガーは90人から100人に1人の割合とされるものの、著者は20人に1人は「隠れアスペルガー」ではないかと推測している。というのも、多くのアスペルガーに共通している「会話において冗談や皮肉がわからず、真に受けてしまう」「親しい友人関係が築けない」「目が泳いでしまう、視線が不自然」「突然怒り出す」といった症状は、大なり小なり思い当たる人は少なくないはずだからで、私自身も当てはまる気がする。そしてこれらには、脳内の化学的な反応が関わっており、例えば精神を安定させる神経伝達物質のセロトニンの分泌が少ないと、不安や恐怖の感情が強まってしまい「恋愛逃避型」となる。あるいは、左右の大脳をつなぐ繊維の束である脳梁(のうりょう)が太ければ脳内を行き交う情報の量が多く並列処理ができ、これがいわゆる「細やかな気配り」につながる訳だが、脳梁が細いと会話を転がしていくような雑談は苦手となり「コミュ障型」に該当するといった具合だ。

 そして本書で興味深いのは、一見すると異性に対して積極的で「恋愛体質」と呼べそうなケースもアスペルガーの可能性を指摘していることだ。アスペルガーは、慢性的なセロトニン不足によりストレスを感じやすく情緒不安定なため、他人とつながることで安心感を得ようと世話好きが昂じて「共依存型」になりやすい。他方、アスペルガーは理性を抑える前頭葉が機能不全を起こしていて、興味の対象にだけは積極的な行動に出るのだが、それが好きな人であると他人への共感性に乏しいのが災いし、恋愛としては破局を繰り返す「刺激追求型」となる。

 アスペルガーについて「恋愛」に絞った本書は一見すると軟派なコンセプトなれど、他人と深く関わる恋愛には自分の思いを伝えることや気遣いをするなど、アスペルガーを克服するために必要な要素がつまっているのは間違いない。それに、目的を持ったトレーニングは身につきやすいだろう。来談者に対する著者の、「普段もそのぐらい気合を入れて頑張ってくれよ……」というボヤキは、人は恋愛で変われる可能性を示していると思う。

文=清水銀嶺