カラスの巣づくり問題の解決策は人工巣? カラスの巣は無闇に撤去してはいけなかった!

ライフスタイル

2017/8/3

『カラスと人の巣づくり協定』(後藤三千代/築地書館)

 人にとって、カラスはもっとも身近な鳥類のひとつだろう。町を歩けば電柱の上や電線の上に留まっている姿を必ず一度は見掛け、時にはゴミを漁ったり電柱に巣を作ったりして悪い意味での存在感を示してくる。そんなカラスと平和的に共存していく道はあるのだろうか? そんな問いの答えを探ったのが『カラスと人の巣づくり協定』(後藤三千代/築地書館)である。

 そもそも、カラスが電柱に巣を作ることで何が起こるのだろうか? 端的に言えば、漏電事故が起こってしまう。現代のカラスは、巣の材料に木の枝の他ハンガーなどの金属類を用いることも多い。この金属類が電線に触れると、感電し漏電してしまう。そうなると、電力会社はいわずもがな広い地域の人々に重大な影響が及んでしまうのだ。ちなみに、1980年から20年の間に新聞に取り上げられた電気事故を見てみると、その原因の大半はカラスの営巣であり、また事故の時期はカラスの繁殖期である春頃に多い。さらに、電柱の巣を発見・撤去しても、すぐ同じ場所に営巣されることが多いため今のところパトロールを頻繁にする以外になく、それとて営巣自体を予防できないのであれば結局電気トラブルの危険性は常に付きまとうことになるのだ。

 そんなカラスへの対策と共存の道として、用意された案が人工巣である。カラスの縄張り内に、電線に触れないように設計された人工の巣を設置するのだ。こう言えば簡単に聞こえるが、これにはカラスの縄張り、その縄張り内に居るカラスのつがいの数、カラスが好む巣の構造や位置などを押さえておかなければならない。また、カラスは生き物なのだから当然縄張りも変化する。それに合わせた対策もいるし、何度かの実験から人工巣の設置時期がカラスの人工巣使用率に大きな影響を与えることもわかっている。到底一筋縄ではいかない作業なのである。

 だが、それらの努力が実ってか、3年間にわたって行われた人工巣の設置試験では大きな手応えがあった。人工巣への営巣率は春分の日の日長変化以前に設置しているか否かが大きな影響を及ぼしていることもわかった(カラスの繁殖期が春分の日以降に始まるため)ことから、条件さえ整えば人工巣に営巣させることも可能になった。これからの長期的なカラスの営巣対策として、人工巣の将来性を期待したいところである。

 人間にとっては悩みの種となるカラスの巣だが、実はそれを利用して繁殖する生物が(カラス以外に)存在する。それが、アカマダラハナムグリという昆虫だ。このアカマダラハナグムリは、コガネムシの仲間であり、また日本の中部より南にある多くの府県でレッドデータブックに取り上げられている希少な種でもある。この虫の幼虫は、腐食物をエサにしていることだけはわかりつつも、その繁殖場所は長年謎だった。それが近年になって、カラスを含む鳥類の巣から何匹もの幼虫や蛹が相次いで発見されているのだ。人間にとっては迷惑な事象を多々起こすカラスの巣も、このアカマダラハナムグリの幼虫にとっては大事な揺り籠だったのである。ただ巣を撤去するだけでは、また再営巣されるだけというのもあるが、このアカマダラハナムグリの繁殖場を奪うことにもなってしまう。カラスの巣は、なければ良いという単純な存在ではなかったのだ。

 カラスの巣づくりに関して、今まで撤去以外の選択肢があまりなかったものだが、人工巣という発想が生まれ、カラスの巣が貴重な昆虫の繁殖場所として有用であることなどもわかったことから、撤去よりも共存を選んだ方が最終的な利益が高い可能性がでてきた。また、カラスの営巣が多い土地の特徴として、農業廃棄物が多いという点が挙げられる。農業廃棄物が多い土地ではカラスの営巣や、撤去後の再営巣率が高いのに対し、青森県など農業廃棄物の再利用を行っている土地ではそうでもないことから、農業廃棄物の有用利用を目指す研究にも期待が高まっている。これは、産業廃棄物を減らす(消す)ことで廃棄物の除去ばかりではなくカラスの営巣を減らす効果も望めるからだ。カラスは人間社会と非常に近い場所に生息しているだけあって、人間社会の影響が大きくでる。それは、人間側の働きかけでカラスとの共存が可能である事実も示唆しているのだ。カラスと人との巣づくり協定が結べる日は、もしかしたらもうそんなに遠くはないかもしれない。

文=柚兎