「反応しない」これこそ現代人の静かな武器である

ライフスタイル

2017/9/14

『反応しない練習』(草薙龍瞬/KADOKAWA)

 人との関わり方で悩んでいる、解決できないイライラを常に抱えていて苦しいという人は、草薙龍瞬氏の著書『反応しない練習』(KADOKAWA)を是非読んでいただきたい。近年、SNSでの炎上が問題になることが多い。中でも気になるのは個人的な行動に対しての批判や中傷だ。誰もが不快になるような内容であれば非難されても仕方ない部分はあるだろう。しかし、旅行や食事のような単なる日常を綴ったものにまで非難の声を寄せる人には個人的に違和感を覚える。

 しかし、こうした不可解な非難はネットの世界だけで起こっているわけではない。リアルな知り合いであっても、子どもの留学の話や家族旅行の話をしただけで「自慢された」と感じてしまう人は実際にいるという。相手の話し方にもよるだろうが、多くはただ事実を話しているだけに過ぎない。つまり、一種の嫉妬なのだろう。話をした本人にとっては普通の日常を送っているだけだが、思わぬ嫉妬の念を抱かれてしまうというわけだ。そして知らないところで勝手な解釈が加えられ、悪評を流されていることもある。これは、弱者または被支配者が自分より強い者に対して妬みや憎悪といった感情を抱くもので、「ルサンチマン」と呼ばれている。近年ネットでも取り上げられることが増えているので、耳にすることは多いかもしれない。

 他人に嫉妬し、勝手に憎悪の念を抱いて非難するとは酷い話だと思いたくもなるが、嫉妬する側も悩んでいる人は多いのだそうだ。他人への嫉妬が止められない者もまた、苦しいのだという。常に自分と他人を比べてしまうからだ。「人は人、自分は自分」という線引きが上手にできないのである。嫉妬を始めとする心の葛藤の原因には「執着」がある。執着を捨てれば人は楽になれる。嫉妬で苦しむこともない。そこまでを書いている書籍は何冊か目にしたことはある。だが、問題はその先だ。その執着をどうやって解決したらいいのか? そう、その解決策に踏み込んでいるのが「反応しない練習」なのである。

 本書の一番の魅力、それは何といってもこのタイトルではないだろうか。「反応しない練習」とはどういうことかと、まずそこが気になる人は多いだろう。これは、他人と比べてしまう人はもちろんだが、嫉妬され非難されることで悩む人も学べる内容になっている。友人、親子、夫婦などあらゆる人間関係の悩みの解決につながる、心の持ち方や行動について書かれている。それは一種の「引き寄せ」にもつながっていくと、個人的には感じた。引き寄せには思考を現実にするトレーニングをするもの、周囲の人間関係から変えていく提案などが主だが、分かりにくいものも実際は多い。「反応しない練習」はもっと人間の思考の根本に迫っている。ブッダの教えを軸に、反応しないことがどのように自分を苦しみから解放するか、人間関係を円滑にするかを解説してくれているのだ。そして実践の方法についても分かりやすいという印象である。反応しないといってもすべてに反応しないわけではない。自分が苦しむ無駄な反応はしないことを提案しているのだ。

 SNSで批判や中傷をされると、つい反論して事態を悪化させてしまう人もいるだろう。場合によっては思わぬ方向に広がってしまい、仕事や家族に影響することも少なくない。見事にスルーできている人は数日程度で鎮火してしまうことがほとんどだろう。炎上しても鎮火が早いのも現代の特徴である。自分に自信が持てない、執着が捨てられない人もまた、他人が気になり、心が反応してしまう。他人の暮らしが見えやすく、簡単に声が届きやすいネット社会だからこそ、反応しないことは最大で静かな武器ではないだろうか。

文=いしい