甘えたいときは思いっきり、構われたくないときは爪を立てる! 自由気ままな黒猫との生活から、自分らしく生きることを学ぶ

暮らし

公開日:2017/10/14

『捨て猫に拾われた男』(梅田悟司/日本経済新聞出版社)

 猫みたいになりたいな。そう思ったことが何度もある。自由気ままでマイペース、無邪気だけどクール、空気なんて読まずに好きなように振る舞う。こちらが勝手に「察して」「合わせて」という態度で猫に接すると、プイっと立ち去られたり、シャッと牙をむかれたりする。

 でも、やっぱり猫みたいになりたいと思う。それは大抵、自分を曲げてまで、人や物事に合わせすぎ、窮屈な思いをしているときだ。「自分らしくない」と感じたとき、いつだって自分らしく気ままに生きる(ように見える)猫のことが羨ましくなる。

 このたび、まさにそんな猫ならではの生き方に惹かれた、元・犬派のコピーライター、梅田悟司さんによる『捨て猫に拾われた男』(日本経済新聞出版社)を読んだ。この本には「猫背の背中に教えられた生き方のヒント」という副題がついていて、一冊のなかにはこれでもかというほど、猫と暮らしたことで得た“気づき”に満ちている。

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 その一部をご紹介しよう。

 里親制度で、梅田一家に引き取られた黒猫の大吉くん。最初は厳戒態勢を取り、様子をうかがいながら少しずつケージから出て、たっぷり1週間かけ、自分のペースで部屋になじんでいった。それを観察した梅田さんは、こんな学びを得る。

大吉と暮らし始めてから、大きな部署異動があった。その時、僕は大吉の振る舞いを見習い、無理することなく自然体でいることを心掛けた。
するとどうだろう。周囲がありのままの僕を受け入れてくれることで、いままででいちばん過ごしやすい職場環境になったのだ。

 梅田家になじんだ大吉くんのお気に入りは、猫じゃらしで遊ぶこと。いつも全力で猫じゃらしに立ち向かう大吉くん相手に、梅田さんも本気の攻撃を仕掛ける。暮らし始めて5年がたってもなお、飽きることなく猫じゃらし(および梅田さん)と格闘する大吉くんを見て、こう考える。

我々人間は「慣れ」と「飽き」にめっぽう弱く、ワクワクしていたあらゆることを、ウンザリする当たり前に変えながら生きていると言える。
(中略)
この慣れと飽きに打ち克つカギは、楽しいかどうかではなく、楽しめるかどうか、楽しもうと思えるかどうかにかかっている。大吉が五年間も同じ遊びを楽しめているのは、目の前にあることを、全力で楽しもうと思っているからであろう。

 時に、大吉くんに牙をむかれ、爪を立てられ、梅田さんはいつも生傷が絶えない。しかし、梅田さんは腕や体に残る傷跡を見ながら、こんなことを思う。

そこで僕が大吉と暮らすなかで気付いたのが「一人では傷付くこともない」「一人ではケンカもできない」という非常にシンプルな真実である。
(中略)
以前は、物事をスムーズに進めることこそが重要であると感じ、揉めごとをできるだけ避けるように生きてきた。しかし、大吉は毎日のように僕の全身に傷跡を残すことで、触れ合うことの重要性を教えてくれている。

 本書は「生活・暮らし」「仕事・自己実現」「友情・恋愛」と、3つの章に分けられ、大吉くんの生き様に触れるうち、梅田さんが得た“生き方のヒント”がすべてに書かれている。ほとんどに共通するのが、楽に生きること、心地よく生きること、楽しんで生きることの大切さだ。その生き方は、自分を好きになることに直結している。自分に軸が通っていれば、多少厄介なことが起こっても受け流せて、人生は以前よりずっとスムーズに回り出す。大吉くんを通して、梅田さんが感じたヒントの多くは、生きづらさを感じている人の心を温めてくれるだろう。

 なお、この本は「猫ブームの被害者が、猫であってはならない。猫のためになる、いい猫ブームをつくりたい」という想いで書かれたという。その優しい愛情に満ちた本書を通し、動物と生きることの価値と覚悟を今一度、噛みしめたい。

文=富永明子