毒殺に用いられた昆虫、戦国武将が兜にした動物…。生きものと人間の深い歴史

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公開日:2017/10/19

『生きものにあやつられた日本と世界の歴史』(宮崎正勝:監修/実業之日本社)

 国や時代を問わず、人類と「生きもの」には深い関係がある。人間が生きものを滅ぼしたこともあれば、反対に生きものによって人間が危機に瀕したこともある。ウマやラクダは交通手段、労力として欠かせない存在だったし、犬や猫ネコは長きにわたり人間の良きパートナーであった。

 『生きものにあやつられた日本と世界の歴史』(宮崎正勝:監修/実業之日本社)は、そんな生きものと人類の、意外だったり、面白かったり、興味深かったりする関係をまとめた歴史雑学本である。

★キャットフラップの生みの親は、誰もが知ってる天才科学者?

 「万有引力の法則」を発見したニュートンは、大の愛猫家だった。彼が生きた18世紀のイングランドでは、ネコをペットにする習慣はなかったにも拘らず、ニュートンはネコを飼っていたそうだ。

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 しかし、研究や執筆をする際に、ネコが「外へ出たい」「部屋に入れてほしい」と頻繁に鳴くことで、集中力が途切れてしまうことに手を焼いていたニュートンは、「ネコが自力で自由に出入りできる扉」を作ろうと思いつき、現代でいうところのキャットフラップを発明した。

 そのおかげで、ニュートンは研究に没頭することができ、問題は解決したというが、一つだけ笑える後日談がある。

 実はニュートン、母ネコと子ネコ用に、それぞれ大きい扉と小さい扉を作ったという。だが、子ネコは母ネコの後をついていくし、「小さい方が自分用」なんて分かるはずもなく、2匹とも大きい扉を使用する。ニュートンは「どうして子ネコは小さい扉を使わないのか?」と不思議がったとか。天才学者の意外な「失敗」エピソードである。

★戦国武将が好んで兜にしたのは、かわいい「ウサギ」だった?

 戦国武将の兜は、かなり凝っている。有名なのは上杉景勝の家臣・直江兼続の「愛」を付けた兜だろうか。奇抜なデザインが数多くある中、生きものを模した兜も存在した。

 その中で、意外な動物がモチーフになっている。雄々しさとは無縁の、ウサギである。かわいらしいウサギが武将に好まれたのは、「動きが俊敏なウサギにあやかりたい」という思いと、「月を神と崇め、ウサギをその使者とする『月信仰』も影響している」そうだ。上杉謙信はウサギ兜を使用していたとか。

 昆虫ではカマキリやチョウ、トンボなども兜のデザインになっているそうなので、武将たちは趣向を凝らし、兜のオシャレを楽しんでいたのかもしれない。

★17世紀イタリアで、妻が夫を毒殺するために用いられた昆虫とは?

 ミドリゲンセイというカミキリムシによく似た昆虫の分泌する液には「カンタリジン」という毒性の強い化学物質が含まれており、「できもの」を治すための外用薬や、利尿剤、催淫薬として用いられていた。

 17世紀のイタリアでは、このカンタリジンを含む化粧水を飲み物に混ぜて夫に飲ませ、毒殺するという事件が相次いだという。当時、簡単に離婚が許されなかったため、夫への悪感情を募らせた妻たちが、毒殺に走ったそうだ。被害男性は600人もいたというから驚きである。

 ちなみに、この虫の催淫薬は、かの有名な小説家マルキ・ド・サドが使用していたことでもよく知られている。

 切っても切れない生きものと人類の歩み。歴史好きな方はもちろん、動物好きにもぜひ読んでほしい一冊だ。

文=雨野裾