父親の転勤先、異国の地で家族を引き裂いたものとは…? 家族の葛藤に心が動かされる名作『Masato』
2017/10/19

日本人=日本語を話す人。この定義に疑問を持つ日本人は、さほど多くはないはずだ。だが、実際にはアイデンティティと言語の関係はそんなに単純なものではない。
先日ノーベル文学賞を受賞して一躍時の人となったカズオ・イシグロは、日本で日本人の両親から生まれながらも、現在の母語は英語。一方、作品が第157回芥川賞候補になった温又柔は国籍こそ台湾だが、ごく幼い頃から日本で育ち、日本語で小説を書いている。
オーストラリアに住む在外邦人である本書『Masato』(集英社)の著者・岩城けいは、デビュー作以降、言葉とアイデンティティの関わりを問い続けてきた。
デビュー第二作である本書の主人公・真人は、小学6年生に進級するのを前に、一家で豪州に移り住む。父の仕事の都合だ。家族は父母と姉の4人。みな、長めの海外旅行に行く程度に考えていた。だが、いざ新しい暮らしが始まると、各々のライフスタイルの違いが家族を引き裂き始める。
現地の事務所で、現地の人々と働く父。言葉の壁で家に引きこもりがちになる母。高校受験を控え日本人学校で学ぶ姉。現地の小学校に編入した真人。父と真人は、必要に迫られてオーストラリアに、そして英語を使って暮らす生活に馴染もうと懸命に努力するが、母と姉は日本人コミュニティから出ようとしない。子供なりにさまざまな葛藤を克服し、「英語のぼく」になっていく真人と、そんな真人の変化にとまどう母は、やがて激しく衝突するようになる。
ぼくは決めた。お母さんは正しいかもしれないけれど、お母さんのいいなりになんかならない。(中略)耳の奥底に残っていた「日本語でしゃべりなさい!」っていうお母さんのどなり声を、今からぜんぶ英語で消してやるんだ。(第五章「補習校」より)
真人は、Masatoになることで、「新しい自分」を作り上げ、結果として急速に独り立ちを始める。
もし、この過程を単なる少年の成長物語として描いたのであれば、本作は「清々しいジュブナイル」で終わっただろう。だが、対局にいつまでも日本にこだわる母がいることで、コミュニケーションにおける言語の意味が驚くほど強く浮かび上がってくるのだ。
異文化に溶け込む事の難しさも、希望も、感じさせてくれる作品。岩城けいさんの文章、大好きだなぁ。-おかだ-
海外に行ったことがないので何ともこの辛さや言語の壁というものを理解し難いが、それでも真人がオーストラリアという地で葛藤しながらも成長していく姿を応援したくなる。-まめ-
異国でのギャップに苦しみながらも、友達とともに頑張って行く姿が、心を打たれた。イジメっ子とケンカしたり、サッカーをしたり、劇をしたり、家族と揉めたり…。いろいろ辛い思いをしながらも、自分の行きたいところへ行くことが大事だと気づかされた、そんな小説だった。-W.Taka-
母語=日本語という当たり前の図式が崩れていく息子を目の当たりにした母の動揺は、現代社会で発生している諸問題に直結する。真人視点で描かれるオーストラリアの生活と自然の透明感溢れる描写を楽しみつつ、グローバル化する世界について思いを巡らせてみてはどうだろうか。
文=門賀美央子
読者コメントはドワンゴが運営する「読書メーター」から引用
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