9年の歳月が紡ぐ “軌跡”のラブストーリー 檜山智子著『12×9の優しい引力』

文芸・カルチャー

2017/10/27

『12×9の優しい引力』(檜山智子/文芸社)

 愛することを教えてくれた人は、恋の忘れかたは教えてくれなかった。時をいくら経ても忘れられない。どんな場所を訪れても、思い出すのは、あの人との思い出……。あなたはそんな切ない恋をしたことはありませんか。

 檜山智子氏の『12×9の優しい引力』(文芸社)は、9年という歳月が紡ぐ“軌跡”のラブストーリー。恋をしたことがある人ならこの本には誰もが共感してしまうだろう。恋をした時に感じる心情があまりにもリアルに表現されているのだ。青春時代、誰もが経験するような甘酸っぱくもほろ苦い恋 。はじめて恋をした時の浮遊感、戸惑い、もどかしさ。時を隔てたとしても、忘れたくても忘れることができない切ない想い……。そんな恋の行方に思わず胸キュン。読者は自分の昔の恋と重ね合わせるようにこの本を読み進めるに違いない。

 主人公は、三十路間近のOL潤子。同世代が結婚していき、家族からも「いい人は出来ないのか」と圧力をかけられる潤子だが、今でも9年前の恋を忘れられずにいる。大学時代に出会った、2年先輩の圭介。同じ美術サークルに所属していた2人はゆっくりと距離を縮めていった。しかし、どうしても言えなかった「好き」の二文字。やがて、大学卒業目前となった時、圭介は病を理由に別れを告げる。それからの9年間、潤子は、彼と過ごした12ヵ月の想い出ばかりを辿り続けてきた。ある時、ひょんなことから圭介の現在を知った潤子は、自分の本当の気持ちを告げようと決意するのだが……。

 この作品は過去と現在の2つの軸で物語が進んでいく。初めての恋を描く過去。新しい恋を見つけようとするもうまくいかない現在。前に進もうにも身動きが取れずにいる主人公の姿は切ない。

 2人の間には圭介の病という障壁がある。だが、この物語は泣ける系・難病モノの恋愛小説とは違う。誰もが経験したであろう日常的な恋愛に焦点をあてた作品だからこそ、誰もが共感でき、その恋の行方から目が離せない。

 特に感動のラストシーンは見もの。懸命に想いを伝えようとする主人公の姿に思わずほろりと涙がこぼれ落ちた読者も多いことだろう。恋って良いもんだなぁとしみじみ。そして、自分もこんな運命的な恋に出会えたらなぁとなんだかちょっぴり羨ましくもなる。

「最初に感じたのは憧れに似た感情で、だからこそあの背に追いつこう、その肩に並ぼうと、必死に追いかけていた」

「図らずして、思いもかけず、落ちるものらしい。恋というものは」

 この本に描かれているのはもしかしたらあなた自身なのかもしれない。切ない恋と向き合い続けるあなたなのかもしれない。恋に惑う人。どうしても忘れられない恋に苦しんでいる人。不思議な引力に魅せられ、忘れ得ぬ恋に落ちた2人を描いたこのラブストーリーは、切ない恋に悩むすべての心を癒すに違いない。

文=アサトーミナミ