天使がついた、最初で最後のウソ。「秘密」と「純愛」のラブストーリーの名手・七月隆文話題作!

文芸・カルチャー

2017/11/10

『天使は奇跡を希う(文春文庫)』(七月隆文/文藝春秋)

 『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』で若者読者に高い人気を得た七月隆文氏の話題作『天使は奇跡を希う(文春文庫)』(七月隆文/文藝春秋)は、瑞々しい男女の恋愛を描きつつ、物語に大きな「謎」を含ませ、それが明らかになった時、読者はハッと驚かされる、そんな感動のラブストーリーである。

 瀬戸内海に近い町、今治に引っ越して来た高校生の良史(よしふみ)のクラスには、天使の羽を持つ女子生徒がいる。名前は星月優花(ほづきゆうか)。しかし、彼女の背中に生える純白の羽に気づいているのは、どうやら自分だけのようだ。

 ある時、良史は優花に彼女の羽が見えていることがバレてしまう。優花は天国に戻れなくなってしまった天使で、羽が見えている良史は「天国に戻れるように、協力してほしい」と頼まれる。困っている人を放っておけない性格の良史は、天使のお手伝いをすることになるのだが……。

 本作は、とても読みやすい。小難しい「文芸」ではなく、読書に慣れていない若者でも楽しんで読めるようなライト文芸である。簡単に言ってしまえば、「好き」という気持ちが奇跡を起こし、物語を動かしていく高校生のラブストーリー。それに読者を驚かせる「しかけ」が施されているのが、七月さんの秀逸な発想力と構成力であり、本作の大きな読みどころである。

 しかし一方で、小説を読み慣れている読者には「浅い」と感じられるかもしれない。事実、本作は表面だけとると、分かりやすく泣けるラブストーリーなのだ。だが私は、考えれば考えるほど、本作は「深い」と感じた。

 この作品にとってネタバレは大敵なので、詳しくは書けないのだが、本作は「愛が奇跡を起こす」というテーマの他にも、様々な想いが秘められている。友情、青春といった清々しいものから、田舎への嫌悪感、自分への劣等感、思春期の葛藤といったネガティブなものまで。

 小説好きが「浅い」と感じる物語には、そういった「陰」の要素が乏しく、「登場人物みんないい人で、爽やかな明るい話」が多いと思うのだが、本作をさらっと読んでしまうと、陰のない軽々しい物語に感じてしまう。けれど、この物語の中に――さらに言えば、天使の優花の心理に――読者が一歩踏み込んでみると、「泣けるラブストーリー」というだけでは語れない、「深さ」が潜んでいる。

 さらに、本作は実在の場所を舞台にしているので、その土地の空気を色濃く感じることができた。天使からの≪ミッション≫で、しまなみ海道をサイクリングする良史の目に映る風景は、本文中では「神様いそうだね」と表現される。この表現こそ、私は「小説の醍醐味」だと感じた。

 しまなみ海道の景色をネットの画像で見ても、私は「神様いそう」とは思わなかった。「神様いそうだね」は、本作の登場人物たちの「想い」が現実の風景とリンクしているから出てきた言葉で、だからこそ、「しまなみ海道」の風景を「現実以上の場所」に感じさせてくれるのだ。この、「文字で現実を越える」ところが、小説の持つ大きな力の一つではないだろうか。

 幅広い年齢層に楽しんでもらいたい本作。まだ読んでいない方は、ぜひとも手に取っていただきたい。

文=雨野裾