日本人の80人に1人が読んだ「ペーパー」の内容とは? 経済産業省若手官僚30名が作成。さらなる情報を追加した『不安な個人、立ちすくむ国家』

社会

2017/12/18

『不安な個人、立ちすくむ国家』(経産省若手プロジェクト/文藝春秋)

 2017年5月18日に開かれた第20回産業構造審議会総会で、「不安な個人、立ちすくむ国家~モデル無き時代をどう前向きに生き抜くか~」という資料が配布された。

 経済産業省の若手官僚30名によって作成された全65ページの資料には、少子高齢化や貧困、活躍の場のない若者など、現在日本が直面する問題がまとめられていた。この資料のPDFが公開されるや大きな反響があり、これまでに150万以上もダウンロードされ、読んだ人たちからは賛否両論、様々な意見が噴出した。各メディアでもニュースとして取り上げられたので、ご記憶の方も多いことと思う。官製の文書というのは往々にして難解であり、「わからせる気はないのか?」という仕上がりになっている場合が多い。なので霞が関用語で言うところの「ペーパー」が、これほど多くの人に読まれることは異例なのだ。

 しかしこの150万を日本の人口(1億2000万人)で割ってみると、ダウンロードしたのは80人に1人に過ぎない。またインターネットを日常的に利用しない層に届いていない可能性もある。そこで資料をもとに様々な内容と情報を追加し、さらに多くの人に日本が直面する問題に関心を持ってもらおうとまとめられたのが『不安な個人、立ちすくむ国家』(経産省若手プロジェクト/文藝春秋)だ。

 本書は資料の全文、プロジェクトに参加した経産省若手メンバーと識者による3つの座談会が掲載されている。識者は解剖学者の養老孟司氏、企業再生のスペシャリストである経営共創基盤の代表取締役CEOを務める冨山和彦氏、批評家でゲンロン代表取締役社長の東浩紀氏だ。

 座談会では、今の状態のまま進んでいくと日本がどうなってしまうのか、なぜこれほどまでに息苦しい世の中になってしまったのかなどを様々な角度から説明している。そして「私が考えても何も変わらない、どこかの誰かがやってくれるだろう」という他力本願状態では日本がもう立ち行かないところまで来ており、問題を解決するのは日本に住む一人ひとりなのである、と考えるきっかけ……いや、もっと言ってしまえば「危機感」を覚えることだろう。24時間営業のコンビニ、道路などインフラの整備や補修、時間通りに到着する公共交通機関、健康保険による病院の受診、どこでもつながる携帯電話、ネットでショッピングしたものが家に届くこと……こうした当たり前だと思っていることが、当たり前でなくなる可能性があるのだ。

 また本書にはメンバーへ取材したページもあり、入省のきっかけや普段どんな仕事をしているのか、なぜプロジェクトに参加したのかなどが綴られている。ここで興味深かったのが、議論を重ねた資料を公開したことによって、ついつい霞が関の中だけのロジックで考えてしまっていた官僚の側にも風穴が空いたことだった。社会で生きる人たちの「生の声」が届いたことで、それまでになかった視点や見えていなかった実情に気づいたことなどを、今後の仕事にぜひ活かしてもらいたいと思う。

「正しい答えはひとつしかなく、それ以外は排除」ではなく、各々が信じること、大切にしていることを緩やかに連携させていく。不安を煽って時代を後戻りさせても、「あの頃は良かった」と考えてもそこからは何も生まれない。誰かの考えを攻撃するのは容易いが、新たな物事を創出するのはとても骨が折れる……この『不安な個人、立ちすくむ国家』は、せっかく出来た建設的な議論のための「叩き台」だ。個人が抱える不安を解消し、立ちすくむ国家が再び前進するには何をすべきなのか。一人ひとりが考え、一歩を踏み出すきっかけの一冊としてもらいたい。

文=成田全(ナリタタモツ)

不安な個人、立ちすくむ国家~モデル無き時代をどう前向きに生き抜くか~