洗わないしクマでもない「アライグマ」…尋常じゃない熱量とユーモアがたっぷりの『なんかへんな生きもの』

暮らし

公開日:2018/1/7

『図解 なんかへんな生きもの』(ぬまがさワタリ:絵・文/光文社)

 人は「何かを伝えたい」と思うから、言葉を発する。文章や、絵を書く。でも、みんながみんな耳を傾けてくれるとは限らない。じゃあ、上げた声をスルーされないために必要なのは、一体何だろう。声の大きさ? 知名度? 否。おそらくそれは「愛と熱量」ではないだろうか。『図解 なんかへんな生きもの』(ぬまがさワタリ:絵・文/光文社)は、そんなことを思わせてくれる一冊だ。

 この本は、イラストレーター、ぬまがさワタリがもともとTwitterやブログで公表していたイラストを1冊にまとめたもの。どんなイラストかというと表紙を見てもらえれば一目瞭然(というか書籍名でもわかる)、“生きもの”について描かれたものだ。

 全40種のジャンルはバラエティに富んでいる。哺乳類や鳥類といったメジャーなものから、ウミウシ、ダイオウグソクムシといった海の生物、エメラルドゴキブリバチのような聞きなれない昆虫、昨年話題になったヒアリや『シン・ゴジラ』の“蒲田くん”のモデルになったと言われるラブカ、などなどタイムリーなもの。珍しい生きものもいれば、ニワトリやゴリラのような身近な生きものもいる。この並びだけだったら「単なる生きもの紹介本では?」と思ってしまうかもしれない。

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 しかし、この本は違う。見てほしい、すべてのイラストに共通する“尋常じゃないテンションの高さ”を。可愛いイラストとびっしり書き込まれた文章から垣間見えるのは、「知って! 魅力的だから!」という著者の心の叫び。

 そしてこの本に詰まった動物たちの秘密や生態は、実際猛烈に面白い。アライグマが餌も洗わなければクマでもない、なんて知っていただろうか? カモノハシはそのフォルムがあまりにも奇妙なことから「創造論者の悪夢」という異名を持つ(ひどい)。アメリカのクリスマスや感謝祭でおなじみシチメンチョウは、受精をせずに単為生殖することができる(えええええ)。ホホジロザメのページで、実は思ったほどサメは人を殺さないよ……というくだりで紹介された「人を殺している動物たち」の数も地味に衝撃的。1年間の推定死亡者数、ゾウで約100人、カバで約500人……カバ怖い。

 ただ知識が詰まっているだけでなく、紹介の仕方もなんともユーモラス。例えば日常的によく見るハト、ドバトのページでは哲学者・ニーチェをフィーチャーして紹介している。「ハトをのぞくとき、ハトもまたこちらをのぞいているのだ」……いや“深淵”だから。なぜニーチェとハト?

 日本一小さなキツツキ・コゲラは、名前が似ているからという理由で「ゴリラ」と比較されている。いや間違えないでしょコゲラとゴリラ。

 コウテイペンギンは、繁殖から雛が成長するまでのプロセスがすごろく仕立てになっている。これが2~3マスおきに「死」がやってくるというなかなか人生ハードモード。天敵に襲われたり、餌がとれずに餓死したり……大変だなペンギン。

 おそらく、珍しい生きものも、そうでない生きものも、すべての生きものが“面白い”のだ。ただ私たちがそれを知らなかっただけ。イラストに込められた愛と熱量が教えてくれたのは、そんな“ものの見方”でもある。

 読み終わったあとにはすべての生きものが興味深く、愛おしく思えてくる、そんな本なのだ。家族や友達など、みんなで読み合って楽しむのもいいかもしれない。

文=川口有紀