「働き方改革」への危惧から利用者を囲い込み!? 東急電鉄の「12か月定期券」に不満の声も…

社会

公開日:2018/1/24

 東急電鉄(正式名称は東京急行電鉄)が大手鉄道会社では初めて、有効期間が12か月つまり1年間の定期券を発売することになった。今年の1月9日に旅客運賃の設定認可を司る関東運輸局長宛に申請を行ったと発表しており、発売は3月からになるという。理由について東急電鉄では、定期券の購入時期は3〜4月などに集中しており、期間延長によって定期券売り場の混雑を避けることや、購入回数を減らすことで利用者の手間を省くことなどを挙げている。現在の定期券はICカード式が主流になっていて、仮に落とした場合でも再発行はさほど面倒でない。この点も有効期間を長く設定できるようになった理由かもしれない。

 ところがこのニュースに対するインターネットの反応はあまり芳しくない。割引率が6か月のものと変わらないことや、乗車区間が東急線内に限られることなどについて不満の声が挙がっているようだ。

 いずれも筆者にしてみれば、「へぇー」の連続だった。筆者が最後に定期券を買ったのは大学卒業後最初に就職した会社に通勤するため。今から30年以上も前のことだ。しかもその会社は半年で辞め、自動車雑誌の編集部に入ったのでいわゆるクルマ通勤になり、フリーになった現在は自転車で10分の場所にある事務所で自転車で通勤しているからだ。なのでいろいろ勉強しながらこのコラムを書いているけれど、12か月定期券が東急線内のみの利用に限られるのは、今回申請したのが東急だけだったという理由が大きく、他社も同様の申請を行い受理されれば、会社をまたいでの12か月定期券も可能になるだろう。

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 しかしもうひとつの不満である割引率については、東京ディズニーリゾートの年間パスポートに相当するのだから、さらなるサービスがあっても良いのではないかという気がする。割引率を大きくできないのであれば、グループ内で使えるポイントなどでサービスを提供する手法もあるだろう。定期券売り場の混雑緩和という理由も気になった。東急電鉄を含めた一部の鉄道会社では、インターネットで定期券の予約を行い、キップやチャージと同じ自動券売機で購入できるシステムが存在しているからである。

 東急電鉄自身はアナウンスしていないけれど、今回の12か月定期券には、利用者流出を防ぎたいという気持ちが含まれているかもしれない。昨年から西武鉄道が主体となって走らせている有料座席指定列車「Sトレイン」からも、似たようなメッセージが感じ取れる。

 そんな鉄道会社がもっとも気にしている世の中の動きは「働き方改革」かもしれない。ここで奨励されているテレワーク(在宅勤務)がもし自分の会社に導入され、週に1〜2回しか会社に通勤しなくても良くなれば、定期券より回数券のほうがお得になる可能性が高い。

 鉄道会社から見ればテレワークは収入減につながるので、あまり話題にしたくないかもしれないけれど、東京をはじめとする大都市の通勤ラッシュ緩和のためには、地方移転ともども効果的な対策だ。となると、働き方改革に見合った新しいスタイルの乗車券が出て来ても良いのではないかという気がする。最近の鉄道会社のキップ事情を見ると、主として観光客向けの1日乗車券などは充実してきているのに対し、こうした需要を念頭に置いた乗車券はあまり目にしていないからだ。

 東急電鉄は鉄道以外に商業施設や宿泊施設、さらには電力会社など、さまざまな事業を展開していて、ポイントを活用したお得なサービスもいろいろ用意している。今後東京の通勤需要が減少傾向になったら、通勤客向けのポイントサービスが必要になるかもしれない。

 もちろん東急電鉄についてはその前に、混雑が激しいことで知られる新玉川線・田園都市線の対策として、渋谷駅のホームを副都心線のように2面用意することが大事ではないかと思うけれど。

文=citrus モビリティジャーナリスト森口将之