サルたちの美麗な写真と、アカデミックな解説が、ヒトのルーツを探る旅へ誘う 『世界で一番美しいサルの図鑑』

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2018/1/24

『世界で一番美しいサルの図鑑』(京都大学霊長類研究所:編/エクスナレッジ)

『世界で一番美しいサルの図鑑』(京都大学霊長類研究所:編/エクスナレッジ)は、さまざまな種類のサルたちの毛並みや色合いの美しさ、知性すら感じる瞳の輝きに圧倒されてしまう、「サル」だけの写真図鑑。

 ぱらぱらとめくり写真を眺めているだけでも楽しく、癒されるが、最新の知見を盛り込んだ解説文も読み応えがある。何しろ監修は、日本で唯一、霊長類学に関する先端的総合研究を行っている京都大学霊長類研究所なのだ。ひとつひとつの解説が、知的好奇心を刺激する。

■130種の美しきサルたち

 本書では「南米」「アジア」「マダガスカル」「アフリカ」の4つの地域、約130種のサルを紹介している。一部を紹介すると…。

 手のひらに乗ってしまうほど小さなサル、ピグミーマーモセット。
 夜明け前の森で、歌をうたうテナガザル。
 頭頂部が左右に分かれた、宇宙人のようなヒゲサキ。
 眼球ひとつで体重の3%を占めるという、巨大な目をもつメガネザル。
 額の三日月型の白い毛から、月の女神にちなんで名づけられたダイアナモンキー。
 5色の体毛をもち、「世界で一番美しいサル」の異名をもつアカアシドゥクラングール。(表紙写真のサル)

手のひらに乗ってしまうほど小さなサル、ピグミーマーモセット

 ページを開く度、驚くような姿や生態をもつサルたちの写真が迫ってくる。

 読み物としても興味深い。たとえば、生息する霊長類すべてが固有種であるマダガスカル。100種以上いるキツネザルの仲間の遺伝子を調べると、祖先はたった1種の、アフリカ大陸に生息していた原始的な霊長類だという。太古の昔、キツネザルの祖先は偶然、アフリカから流木に乗って海を渡り、マダガスカルにたどりついたと考えられているそうだが、なんともロマンをかき立てられる話だ。

 そして、サルたちの置かれた現実も、本書は冷静に教えてくれる。マダガスカルに生息するシファカというサルの、地面をぴょんぴょん横っ跳びする様はユーモラスだが、これは人間が木を切ったことで、木と木の間隔が開いて跳び移れなくなってしまったためだという。

 また、動物園でよく見かけるワオキツネザルは、生息地の森が減っていることで絶滅危惧種に指定されているが、動物園での繁殖が容易だったため絶滅の危険性が顧みられなかったことも原因のひとつとされる。
 現在、地球上に生息する霊長類のうち、60%が絶滅に瀕し、75%は個体数を減少させている。森林破壊により生息地が狭められた群れは人里に下りて農作物を害し、地域住民との軋轢も生じているという。「人間と自然との共生」を実現する叡智が求められているのだ。

孫悟空のモデルという説もあった中国のサル、キンシコウ

■我々ヒトは、どこから来たのか

 サルたちに妙な親近感をおぼえるのは、私たちにもっとも近縁だからだろう。私たち「ヒト」は、世界中に約440種いるといわれる霊長類、その1種である。
 ヒトと遺伝子の98%以上が一致するチンパンジーは、道具を使い、その使い方は集団ごとに違う。すなわち文化をもっているのだ。その一方で、同種内殺戮を行う高い攻撃性も備えている。ヒトと共通の祖先から受け継いだのかもしれない、悲しい特徴だ。しかし同じチンパンジー属でもメスの社会的地位が高いボノボには、集団内の争いは少ないという。示唆に富む観察結果である。

高い社会性を持つ、マウンテンゴリラ

 白亜紀末、アジア南部からアフリカ北部に、最初の霊長類が出現したと考えられている。それから進化と絶滅を繰り返しつつ、600万年前、アフリカのどこかで、我々の遠い祖先が大地に立ち、ついには150万年前、原人が「出アフリカ」を果たした。そのはるかなる旅路の果てに、私たちはいる。
 会社や学校の帰り、見上げた夜空に浮かぶ月を、どこかの森でサルたちも見ているかもしれない。その同じ月を、遠い祖先もかつて見ていたのかもしれない。時には月を見上げつつ、気が遠くなるほどの時をかけて進化の道を歩んできた霊長類の旅へ、想いを馳せてはいかがだろうか。本書は、そのよき道案内にもなるはずだ。

文=齋藤詠月