ももいろクローバーZを卒業した「有安杏果」。彼女のソロライブパンフレットを振り返る

エンタメ

2018/2/5

『ココロノセンリツ♪』(有安杏果/太田出版)

 空気のように当たり前だったはずのモノが、失われたときのショックは大きい。1月21日に幕張メッセ国際展示場で行われた「ももいろクローバーZ 2018OPENING ~新しい青空へ~」までの約1週間、いや、そのあとに至っても、有安杏果という人がグループを卒業したことについて、今もなお思いを巡らせ続けている。

●ももクロは“奇跡の5人”としてずっとあり続けると思っていた

 突然の卒業発表は、彼女のブログ「ももパワー充電所」からだった。卒業ライブの約1週間前、15日に「ファンの皆様へ」という題名で更新された記事で、彼女は「ももいろクローバーZを卒業します」と綴った。引用のみでは、すべての意味が伝わりきらないし、どこをかいつまむかによって思わぬ誤解にもなりかねない。そのためぜひ彼女の全文を読んでほしいのだが、記事内では「普通の女の子の生活を送りたい」という一文も記されていた。

 僕は根っからのアイドル好きで、毎月のようにどこかのグループが立つステージへ何やかんやで数回は足を運んでいる。アイドルが卒業するというのも、これまでに何度も見てきていたはずなのに、彼女の卒業は意味合いが異なっていた。

 全力にがむしゃらに、突き進んできたももクロはかつて“奇跡の5人”と呼ばれていた。2011年に早見あかりの卒業で5人体制の「Z」となり、有言実行を貫きながら2014年には当時のライブ会場として最大の収容規模を誇っていた国立競技場でのライブを達成。その場でリーダー・百田夏菜子が宣言した「笑顔の天下」に向けて、近年は活躍を続けている。

 女性アイドルの活動期間はそう長くはなく、おおむね25歳で卒業するという“アイドル25歳定年説”もある。もちろんその年齢を超えても活躍しているアイドルも少なくないが、ももクロは5人のまま、それこそ彼女たち自身も“ジャニーズ事務所の嵐のように何歳になってもアイドルを続ける”という意思を示していたので、永遠にメンバーは変わらぬまま、活動を続けていくものだとずっと思っていた。

●杏果なりのプロ意識で苦慮しつつも“卒業”を決断したのではないか?

 しかし、有安杏果はステージを去った。卒業ライブの終盤、メンバーから手渡された花束を腕いっぱいに抱えた彼女は、心なしか晴れ晴れとした笑顔を見せていた。その後の報道をきっかけに、SNSを中心にさまざまな憶測も飛び交った。おそらくその理由は彼女がステージで発した「10周年を5人で迎えられると思ってました。でも、4人のためにこうするしかなかった」という言葉だけが、いつの間にか一人歩きしてしまったからなのだろう。

 この言葉のみを受け取ると、ともすれば「グループでの活動がイヤになって辞めたのでは?」と邪推する声があるのも必然かもしれない。ただ、僕には少なくともそうはみえず、むしろ最後の笑顔は苦慮した末で卒業を決断し、グループに流れる“全力”を貫きながら8年間を突っ走ったことで、すべてをやり切った上で燃え尽きたのではないかと感じられた。

 ももクロの“小さな巨人”と称するほどに小柄だった彼女は、そもそも0歳から芸能界で活躍し続けてきた一人だ。経験からくるプロ意識が随一だった一方で、同じくメンバーの佐々木彩夏が周囲の期待に添う形でのずば抜けたセルフプロデュース力を持つとするなら、彼女は対照的で、みずからのやりたいことを“チャンス”の中でどう実現するかにがむしゃらな印象もあった。

●杏果が綴ったソロコンの公式パンフレットを改めて手に取ってみた

 彼女ながらのプロ意識は、彼女自身が2016年7月に横浜アリーナで行った初のソロライブ「ココロノセンリツ ~feel a heartbeat~ Vol.0」の公式パンフレット『ココロノセンリツ♪』(有安杏果/太田出版)からも垣間見える。

 彼女が歌への憧れをはっきりと意識し始めたのは小学校6年生の頃、当時の日記には「ちゃんと書いてあったの。『歌いたい』『伝えたい』って」と振り返っている。ソロライブ実現の第一歩は2014年11月に新潟で行われたトークイベントで、台本がないままに「みんながいてくれるうちに、ソロコンサートをやりたい」と彼女が発した一言から動き出した。

 2015年5月からソロライブ直前の2016年5月までの心境が記録された直筆の日記も本書には掲載されているが、初日の打ち合わせを控えて「前日からもうドキドキで、いつも夢を見ない私が寝坊しちゃう最悪な夢をみてしまった…笑」と嬉々として綴っていた彼女。準備を進めていく中では扁桃腺炎の手術を受けるという苦労もありながら、みずからも作詞や作曲に挑み、初めてのソロライブは成功を収めた。

 最後となる2016年5月31日の日記で彼女は「21年間生きてきた中で、ついに夢が叶う瞬間まであと1ヶ月。とにかく今できること、いやできること以上に全力で走りきるぞ!」と強い意思を示していた。以降も、彼女のソロライブは2017年10月に日本武道館で行われた「ココロノセンリツ ~feel a heartbeat~ Vol.1.5」まで合計5回を数えた。

 ライブのタイトルにもある「feel a heartbeat」は、彼女が作詞と作曲を共に手がけたソロ曲でもあるが、曲中には「even if 掴んだ瞬間 幻になっても 君と見たこの景色は永遠に」という一節がある。ひたむきにけなげに歌い上げる彼女の姿は、今はもう記憶と記録の中にしか残っていない。

 しかし、彼女が残してくれたものを胸に、ももクロは4人体制として新たなスタートを切り、ファンもそれを受け入れて前へと進み始めている。そして、普通の女の子としての人生を歩き始めた彼女には、心からの“ありがとう”をプレゼントしたい。

文=カネコシュウヘイ