山中伸弥と羽生善治。天才対天才の対談から見る、人間とAIの未来

暮らし

2018/2/11

『人間の未来 AIの未来』(講談社)

  iPS細胞の研究でノーベル生理学・医学賞を受賞した山中伸弥教授と、史上初の「永世七冠」を得た国民栄誉賞受賞のプロ棋士・羽生善治さんの対談をまとめた書籍『人間の未来 AIの未来』(講談社)が刊行された。たがいに異なる世界で人びとをあっと驚かせる“天才対天才”の対談は、ページをめくるたびにワクワクしてやまない。

■将棋の世界では「AI以上の対局価値をつくり出していけるか」が人間の課題

 本書は、山中教授と羽生さんがたがいの分野にまつわるキーワードをテーマに、質疑応答を重ねるかたちで進んでいく。例えば、第3章で山中さんが羽生さんへぶつけるのは「人間は将来、AIに支配されるでしょうか?」という問いだ。

 昨年、将棋プログラム「PONANZA」が佐藤天彦名人に勝利したニュースも記憶に新しいが、山中さんは「コンピュータが対戦した棋譜に、人間から見て面白さとか自然さとかの違いはあるんですか?」と率直な疑問を投げかける。

 それに対して「現在のAIはまだ時系列で処理していない」と応える羽生さん。現時点の将棋ソフトは「一手ずつその場面その場面で、一番いい手を指していきます」と評価をみせる一方では、「流れがないので、人間から見ると、AIの棋譜を不自然に感じます」と感想を述べている。

 また、将棋には大きく分けて、序盤・中盤・終盤という流れがある。その流れの中では「例えば人間の棋士は『じゃあ持久戦で行こう』とか『急戦調で攻めていこう』といった方針、方向性を持って考えていくので、指し手にそれが反映される」のだという。

 やがて話は弾み、人間がAIに仕事を奪われるというここ最近でたびたび話題に上るトピックでは「棋士というお仕事はなくなりそうにないですね」と伝える山中教授に対して、羽生さんは「今の棋士には、人間同士の対局を魅力的なものにして、AI対局以上の価値をつくり出していけるかが問われているんだと思います」と持論を示している。

■実験の先で思いがけない結果を「喜べるかどうか」がアイデアの鍵

 本書の第6章で羽生さんが山中教授へ問いかけるのは「新しいアイデアはどこから生まれてるのでしょう?」というものだ。

 将棋の世界では「自分が『いい手を思いついた!』ということがあっても、だいたい他の誰かがすでに思いついている」と話す羽生さんに、山中教授は「研究者は特に他の人と同じことをやっていてはいけない、面白くない、ということは誰からも言われる」と伝えている。

 羽生さんと同じく「『これはすごいアイデアを思いついた!』と思っても、だいたい他の人がすでに考えていますね」と研究者としての実感を示す山中教授。ただ、たとえ誰かが思いついていることであっても、実験をしてみて「予想通りの結果ではなく、まったく思いもかけなかった結果が返ってくること」こそが何よりもの“チャンス”だと持論を展開する。

 科学の分野では、仮説を立てて検証するフローが欠かせない。その過程では思いがけない結果にたどり着くこともあるが、そこで「期待していたものとは違った結果が出たときにがっかりして終わってしまうか、それを『これは面白い』と喜べるかどうか」が、アイデアが生まれる分岐点なのだという。

 本書は山中教授と羽生さんによる、それぞれの分野にちなんだ対談を実現したものである。しかし、読み進めてみると二人の会話には、世の中のすべてのものごとへと通じる“原理原則”も垣間見える。天才同士の対談から、ぜひそれぞれが何かを感じ取ってほしい。

文=カネコシュウヘイ