ローギア、なのに時々アクセル全開!『スロウスタート』の原作は、何かと枠に収まりきらない日常系4コマ

アニメ・マンガ

2018/2/17

『スロウスタート』(篤見唯子/芳文社)

『まんがタイムきらら』と言えば、日常系ゆるふわ4コマのサンクチュアリ。関連誌を含めると、これまで『けいおん!』『きんいろモザイク』『ご注文はうさぎですか?』といったヒット作を生み出してきた。そんな「きらら系」の一角をなすのが、2013年から連載中の『スロウスタート』(篤見唯子/芳文社)だ。

 ぷにぷにした頬、グラデーションのかかった瞳、柔らかな色調。なんとも愛くるしい女の子たちが登場するが、その設定は少々珍しい。主人公の一之瀬花名は、高校入試の前日におたふく風邪にかかり、中学浪人になってしまった女の子。1年のブランクを経て、遠く離れた地で高校生活を始めたものの、もともと人見知りするうえ「1つ年上」とあって不安を抱えている。大学浪人ならよくあることだが、10代半ばにとっては1歳の差がとても大きく感じられるに違いない。

 そんな花名の不安とは裏腹に、入学初日から3人の友達ができる。いつもにぎやかなオタク女子・百地たまて、抜群のコミュ力で女子にモテモテな十倉栄依子、栄依子に懐いている小動物系の千石 冠だ。3人のペースに巻き込まれ、時にあたふたしながらも、花名は少しずつ心を開いていく。しかし、それでも「1つ年上」とは言い出せない。レイザーラモンRGの「あるある」ばりに「早く言いたい」、でも言えない。もどかしさを抱えながらも、3人に歩み寄ろうとする花名の姿に、「ゆっくりでいいんだよ」と声をかけたくなる。

 さらに、花名が暮らすアパートの大家であり、従姉の京塚志温、同じアパートの万年大会の存在も効いている。実は志温は就職浪人で、万年さんも大学二浪中。しかも万年さんにいたってはコンビニにも行けないほどの引きこもりだ。花名の事情を知る彼女たちと触れ合うことは、花名の成長にもつながっていく。人と違っていてもいい。自分のペースで進めばいい。みんなを受け容れ、だからこそ自分も受け容れてもらえる、優しい世界がここにある。

 というと、重たいマンガのようだが、そんなことはまったくない。学校行事を絡めたストーリーがギャグを交えながら進み、時にはきわどいネタも織り込まれる。「中なのか、外に出すのか」(何を?)と悩む女子がいれば、古くなったパンツはいつ捨てるべきか熟考する女子も。冠の寝起きのほっぺに丸い跡がついていれば、「えーこちゃんのちくびの跡かと」「かったいなあ 私の乳首」と軽口をたたく。かわいい絵柄にくるまれているものの、冷静に読むとかなり尖った作風であり、「ゆるふわ系」の枠に収まりきらない。「枠に収まりきらない」と言えば、大家の志温さんの胸も……いや、これ以上は読んでのお楽しみか。

 ほかにも、栄依子と担任教師(もちろん女性)との切なくも危うい関係、登場人物が抱えるささやかな秘密、モテ女子・栄依子の背後に迫る謎の女子など、読みどころはいろいろ。時にドキドキし、時に心癒されながら、ゆっくりとページを開いてほしい。

文=野本由起