「定年観測」で好きな人生を生きろ! 定年から遡って考える「マイ人生」
公開日:2018/2/27
書名だけ見ると、本書『定年バカ(SB新書)』(勢古浩爾/SBクリエイティブ)は、定年世代に向けた本に思えるが、ぜひ定年からほど遠い世代の人にも読んでほしいと思う。本書は、定年の準備や老後の生活について、ちまたに乱立するお節介な情報や豊富すぎるノウハウについて、著者がキレ味良く物申すといった内容だが、いっぽう、生き方の哲学の本ともいえるだろう。なぜなら、本書の根底にある「自分の責任において、自分の好きにすれば良い」というメッセージは、どんな世代にも共通しているからだ。
■ステレオタイプに縛られず「自分は、自分」と考える
著者の勢古浩爾氏は、洋書輸入会社で34年間の会社員生活も経験、本書を執筆するにあたって39冊の「定年関連本」本を読み、定年に関するニュースやテレビ番組、内閣府や各団体の資料、はては新聞の人生相談や小説まで、ありとあらゆる「定年モノ」ウオッチを重ねてきた。巻末の、著者による39冊の「定年関連本」のミシュラン評価もオススメだ。こういった経緯をふまえ、導き出した結論とは、「自分は、自分」と、いたってシンプル。まえがきで、このように述べている。
定年後どう生きたらいいかについては、一言で足りる、とわたしは思っている。
「自分の好きにすればよい」である。(中略)「好きにする」には当然、責任が伴う。
わたしたちは、自分の頭で考え行動してきたようで、実は世間の「~しなさい」や、ステレオタイプの「~すべき」に影響され、縛られている部分もあるのではないだろうか。ふだんから心の声を聞き、自分の責任において、ほんとうに自分のやりたいこと、好きなことを選んでいくことが納得のいく人生につながっていくように思う。
■「未練バカ」に、「ムフフのバカ男」
さらに勢古氏は、定年を迎えて組織を離れ、肩書を失っても「ただの人」だという自覚のない輩に対し「未練バカ」と、一喝。その変形バージョンとして、「まだモテると思ってるバカ」を挙げ、「まだモテる、まだモテたい」という気持ち、さらに「あわよくば」と思うことは、「ほとんどはただの妄想で終わる」と身もフタもない。その例として、渡辺淳一氏の小説『孤舟』と、内館牧子氏の小説『終わった人』から、「ムフフのバカ男」な主人公たちを解説するスカッとした毒舌も面白い。
■「~しなくてはいけない」と決め付けないこと
「定年はそれまでとおなじ継続した人生」と、あくまで気負わない勢古氏だが、定年後に社会的意義のあることを「なにもしていない生活」を送る人々に対しても優しい。決して「~しなくてはいけない」と決め付けない、飄々とした柔軟な考えに共感を覚える人も多いのではないだろうか。
あとはいつになるのか知らないが、そのまま最後まで人生を全うできればいい。できたら、美しい姿のままで。「人生に」に振り向いて、深々と一礼をして。
著者の品性と人柄が、しみじみとにじむ一文だ。「これでいいのだ」と風が吹くような光景を想像できる。一度きりの人生、全力で好きなように生きようと勇気づけられる、価値ある1冊である。
文=佳山桜子
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