悩める少女に寄り添う犬、家族の真実を見ていた猫…「ペットの最期の言葉」を飼い主に伝える女性の姿は感涙必至

文芸・カルチャー

公開日:2018/3/15

『みとりし』(髙森美由紀/産業編集センター)

「生き物の言葉が分かる」という女性が主人公の『みとりし』(髙森美由紀/産業編集センター)。死期の近づいた動物たちと、その動物を愛する飼い主に「最期の言葉」を伝える、ファンタジックでハートフルな「泣ける動物ストーリー」かと思いきや、ちょっと想像を裏切られた。もちろん、いい意味で。

 自分の意志で「選択」することが苦手な25歳の薫。人から「どうしたい?」と聞かれると、言葉に詰まってしまう。無気力で、どこか謎めいた女性だ。彼女は子どものころ交通事故に遭ったことがきっかけで生き物の言葉が分かるようになったけれど、彼女はそれを不思議には思いながらも淡々と受け入れる。その力を使って「何かの役に立てよう」「自分にしかない、スゴイ能力だ」と考えたりはしない。

 派遣切りで職を失った薫は、「ちいさなあしあと」というペットシッターの会社に再就職する。主な仕事は死期が近いペットの「看取り」。様々な事情でペットの死に目に会えない人や、「会いたくない」人、世話が大変で、誰かに任せたい人……そういった顧客のニーズに応えた仕事であった。

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 薫は淡々と仕事をこなす。
 老いて病気となり、家族から見放された犬。
 失恋した青年と暮らすウサギ。
「遺産争い」の真実を知る老いた猫。
そういった生き物たちの「最期」の言葉が、薫を通じて飼い主に伝えられる。その時、凝り固まって前に進むことのできなかった人の心が、優しく緩むのである。

 『みとりし』の設定はとてもファンタジックなのだが、妙にリアリティを感じた。「リアル」というのは、「シビア」と言い変えられるかもしれない。動物たちは都合のいい「お助けマン」ではない。彼らの言葉が、安易に飼い主を――人間を癒すわけではないのだ。

「動物の言葉が分かる」という奇跡のような能力を持っていても、本作では「黒」がいきなり「白」に変わり、「今まで悩んでたこと全部解決して、あ~スッキリ!」みたいな終わり方にはならない。

 本作で語られるのは、動物を通して見える人間の「陰」の部分だ。弱さ、汚さ、愚かさ……そういったものが色濃く描かれ、考えさせられることも多い。そういう意味で、現実感が強いのだ。

たくさんの動物が出てきて、ただただ「かわいい」「癒されたい」「泣きたい」以上の思いを残してくれる作品だ。

 暗闇の中に小さな光……「希望」が見え隠れして、それがどうしようもなく読者の心を揺すぶるような、厚みのある物語だった。

「看取り」の仕事をすることで、薫自身も緩やかに変わっていく。読者は「この主人公には何かあるんだろうな……」と感じながら読んでいくことになると思うのだが、物語が進むごとに、その「謎」が明らかになっていく展開も、飽きずにページめくることができた一因だと思う。

 終盤の辺りで、薫が小さい頃に遭遇した交通事故の「真実」が分かった瞬間、誰しも驚くはずだ。そして再び、薫という女性の「人生」に想いを馳せ、彼女の成長を自分のことのように嬉しく感じるのではないだろうか。

文=雨野裾