「本能寺の変」の黒幕は……いない! 光秀をバカにしすぎ。『応仁の乱』の著者が陰謀論を論破!

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2018/4/22

『陰謀の日本中世史(角川新書)』(呉座勇一/KADOKAWA)

 明智光秀が本能寺の変で織田信長を殺害した……。この歴史的事実には、様々な説が提唱されている。朝廷黒幕説、足利義昭黒幕説、実は秀吉が裏で手を引いていた、実は家康が協力者として名乗りをあげていた……。このあまりにも動機の分からぬ「不可解な」事件には、多くの陰謀論がふりまかれている。

 本能寺の変に限らず、歴史には、少なからず「陰謀」が存在する。
 そしてすべてを~~の陰謀で説明しようとする「陰謀論」も。

 陰謀論は面白い。読者はミステリー小説を読んでいるような感覚になるし、「普通の人は知らない=自分だけが知っている真実」に快感を得ることもできる。

 だが、そんな「陰謀論」を徹底論破して、「学問としての歴史学」を教えてくれるのが3月9日に電子書籍が配信された『陰謀の日本中世史(角川新書)』(呉座勇一/KADOKAWA)である。『応仁の乱』(中公新書)がベストセラーとなり、今、注目を集める歴史学者の最新作だ。

 本書では「本能寺の変の黒幕は誰か」という話だけでなく、「源義経は陰謀の犠牲者だった」「足利尊氏は陰謀家」「日野富子は悪女」「徳川家康は石田三成を嵌めた」など、平安後期から江戸初期にわたる、「まことしやかにささやかれる陰謀論」を最新学説で「一蹴」するという内容だ。

 要はメディアが面白おかしく取り上げたネタ的な歴史や、自称研究者の思い込みで提唱されている「陰謀論」に惑わされず、「史実を見極める目」を養うための一冊でもある。

 本書……とても読み応えがあった。内容はもちろんのこと、「史学という学問」の面白さを再発見した気分になった。

 ちなみに私は学生時代、日本史学を専攻しており、一応学問的に歴史を学んだ人間である。大学4年間の勉強だけなので、あまり偉そうなことは言えないが、そんな私から見ても「ネタでしょ」「明らかにおかしい」と思うような「歴史本」「歴史テレビ番組」は存在する。

 例えば「○○は戦死しておらず、海外で生きていた」とか、「徳川埋蔵金は実在する」とか、そういう類のものだ。得てして、そういうトンデモ説の方が面白いので、「それはそれ」として楽しんで読んだり、観たりはするのだが、「学問としての歴史ではない」という前提のもとに受け入れている。

 何が言いたかったかというと、本書は、そういうフィクションとしての面白さではなく、「学問として追究する歴史の面白さ」を大いに感じさせてくれたということだ。

 本書いわく、歴史学は「『確からしさ』を競う学問」だという。

 史料を発掘したり、一つ一つ丁寧に時間をかけて読み込んだり、同時代に書かれている内容を比較したり、先行研究を読んだりと……そうやって「事実を積みあげていく」学問である。

 だが、研究者は真実を軽々しく口にしない。

 当然だが、誰も過去をさかのぼって「見てくる」ことはできないので、「答え」は出ない。だからこそ史料を相手に「こうだったかもしれない」「この可能性もある」と仮説を立てては捨てるを繰り返し、「自分が導き出した一つの説」を「発見」することが学問としての「楽しさ」だと思う。決して「創作」ではなく、あくまで「史料」から「発見」するだけなのだ。

 だが陰謀論を語る歴史学者の中には、100%自説が正しいと信じて疑わない方もいるとか。著者はそういった歴史学者の「史学的には荒唐無稽な自説」が影響力を持ち、世に広まってしまうことにも懸念を抱いているようだ。

 さて、本書の一番の魅力は「歴史学の真の楽しさを教えてくれること」だと思っているのだが、内容にも触れておこう。

 光秀が信長を暗殺したのは、「突発的な単独犯行」だと本書は述べている。

 光秀にどのような「想い」があったかは分からない。だが、黒幕がいて綿密に立てられた計画ではなく、「突然現れたチャンスを逃すまい」とした結果なのではないか、ということ。

「そんな穴だらけの無謀なことする?」と多くの方が思われるかもしれないが、「死角のない完璧な犯罪計画など存在しない」と著者の呉座さんは述べる。

 陰謀論を信じ過ぎる人は、「結果」から逆算して、一番「得をした人が犯人」だと単純に結論づけたり、一つの事件を、全て計画通りに進めた「スーパーマン(黒幕)」がいると考えてしまったりする。

「史実」はそんなに単純ではない。「タナボタ」で得をした人もいただろうし、「追い詰められてダメ元でやってみたら、成功しちゃった」人もいるだろう。「感情で行動した」ことが、大きな事件となってしまい、後世の人が『まっとうな理由』――自分の息子を後継者にしたかったから――などの後付けをしたなんてこともあるのではないか。

 歴史学は、数学のような「正しさ」があるわけではなく、真実は永遠に闇の中といっても過言ではない。だが、その闇の中から断片を拾い上げ、一つの「説」を導き出すという行為は、奥が深く飽きることがない。

 本書を読んで、その面白さに気づいてほしいと思う。

文=雨野裾

『陰謀の日本中世史』
著:呉座勇一
レーベル:角川新書
出版社:KADOKAWA