検索は口ほどに物を言う…ビッグデータから人間の本性が分かっちゃう?

社会

公開日:2018/4/12

『誰もが嘘をついている ビッグデータ分析が暴く人間のヤバい本性』(セス・スティーヴンズ=ダヴィドウィッツ:著、酒井泰介:訳/光文社)

 総務省の『情報通信白書 平成29年版』によると、2016年12月に施行された「官民データ活用推進基本法」や2017年5月に施行された「改正個人情報保護法」などを契機に、日本は「ビッグデータ利活用元年」に向けた環境整備が進みつつあるとしている。企業がビッグデータを経済活動に使うだけではなく、社会変革をももたらす可能性を示唆しており、それは大変に結構なことではあるけれど、海外に日本ブランドを売り込む「クールジャパン戦略」がどこか上滑りしていることを考えると、どうにも一抹の不安を覚える。そもそも、ビッグデータとはどんなモノなのか調べていて見つけたのが、この『誰もが嘘をついている ビッグデータ分析が暴く人間のヤバい本性』(セス・スティーヴンズ=ダヴィドウィッツ:著、酒井泰介:訳/光文社)だ。

 主にインターネットでの検索データを分析した著者が、「人はグーグルに告白する」と述べているのには正直、背筋が凍る思いがした。別に「自分のグーグル使用体験を思い出してほしい。人前では憚れるような検索をしたことがあるはずだ」と指摘されて、私がアダルトサイトを探していた事実を突きつけられたからではない。日本でも驚きをもって報じられたドナルド・J・トランプのアメリカ大統領就任を、本書では人々の検索行動を追えば予測することが可能だったとしている。クリントンが勝つと見込まれていた地域において「トランプ クリントン」での検索の方が「クリントン トランプ」という検索よりも多く、世論調査の結果をひっくり返したからだ。確かに検索するさいに、自分が興味を持っている語句を先頭に入力するのは当然のように思える。

 検索行動に無意識の心理が表れるとしたら、アンケートの方はどうだろうか。アメリカにおいて権威と影響力を持つとされる総合社会調査(GSS)のデータを分析したところ、異性愛者の女性の回答を信じれば年間に消費されるコンドームは11億個になるのに対して、異性愛者の男性は16億個のコンドームを使用していることになる結果が出た。男性の方が見栄を張って嘘をついているのかといえば然に非ず、コンドームの年間販売量は6億個に満たない。つまり、人は匿名でさえ嘘をつくということで、どうやらアンケートによって集められたビッグデータは取り扱いに注意が必要なようだ。

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 しかし、本書ではもっと重要な問題について幾つか警告を発している。その一つは、「より不明確で悪質な差別」が世の中に蔓延することだ。例えば日本でも話題になるキラキラネームはアメリカでは貧困家庭に生まれた子供に多いとか、SNSで特定の音楽に関するページに「いいね!」をつけた人々のIQが低めだったといったデータもあるのだとか。もちろん、傾向を示しているだけにすぎないのだが、もし企業が個人とデータを同定し雇用や従業員の昇進のみならず、顧客に対してもサービスの提供の可否に活用したら、「恐ろしいディストピアの始まりのようだ」とする著者の危惧には同意せざるを得ない。

 一方、著者が「過去数年間で最も有意義なものだ」と絶賛している研究成果がある。マイクロソフトの検索エンジンでのデータを使った研究で、前駆症状が分かりにくく発見後の生存率が低い「すい臓がん」と診断されたと思われるユーザーを検索語句から特定し、そのユーザーが当初は「腰痛」を調べ、続くように「消化不良」や「腹痛」を検索していたことを突き止めた。医師の前では正直に話せなかったり話し忘れたりしても、検索エンジンには告白しているということか。あるいは、病院に行く踏ん切りがつかなくて検索したのかもしれない。ビッグデータを活用した社会変革とやらが、人々に福音をもたらすことを祈るばかりだ。

文=清水銀嶺