「結婚」とは異文化コミュニケーション! お互いの食文化は衝撃の連続!!

マンガ

公開日:2018/4/12

『新婚よそじのメシ事情』(小坂俊史/竹書房)

 日本の少子高齢化は深刻であるが、その一因は晩婚化もあるだろう。それでも結婚できればよいほうで、私などはアラフォーながらいまだに嫁さんも貰えない身である。まあそれはともかく、結婚したらしたで、これまで違う環境に育ったふたりが一緒に暮らすとなれば、その生活の違いは大いに感じられるはず。特に「食」に関してはそれぞれの家庭で育まれたものが大きく、その差に愕然とすることもありそうだ。『新婚よそじのメシ事情』(小坂俊史/竹書房)は、アラフォーで結婚した漫画家がそれぞれの食生活に衝撃を受けながら、日々を暮らしていくエッセイコミックである。

 著者の小坂俊史氏はひとり暮らしを始めて21年、漫画家稼業17年のツワモノ独身だったが、齢40にして初めて結婚することができた。妻も同じ漫画家であるが実家暮らしで、一緒に生活したことは結婚まで一度もなかったという。ゆえに新居で彼女の作る手料理に胸をときめかせて待つ著者であったが、初手からいきなりのカルチャーギャップが発生する。妻が最初の手料理に選んだのは「しょうが焼き」だった。著者は豚バラ肉と玉ねぎにタレをからめて焼いたものを想像していたのだが、出てきたのは豚ロース肉を焼いた著者いわく「中流以上のしょうが焼き」だったのだ。確かに豚ロース肉のしょうが焼きは「ポークジンジャー」と呼びたくなるイメージである。このような微妙な感覚のズレは、その後もちょくちょく顔を覗かせることに。

 そのズレで最も大きいのが、牛肉に関してであろう。妻の実家は牛肉にこだわりがあったらしく、かなり高級なものを食べていたのだ。そのため安い牛肉を買うのに抵抗があるようで、著者の食卓には牛肉を使った料理が並ぶことがなかった。家庭料理の定番たる「肉じゃが」や「ビーフカレー」も同様である。著者が妻に「お家でやってたカレー作ってよ」とリクエストしたところ、妻から「お肉に五千円ほどかかります」といわれ衝撃を受けることに。もちろん鶏肉などで代用は利くのだが、やはり気軽に牛肉が食べられないのはツラいところかもしれない。

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 結婚してから台所の主は妻ではあるのだが、独身の長かった著者も独自の「食」文化を持っており、たまには妻に代わって食事を作ることも。その中で妻に認められて料理ラインナップに加わったのが「ベーコンエッグ丼」だ。「なんでも丼にすりゃいいって男のDNA」と妻に指摘される著者ではあるが、そんなDNAが男にあるのか? 少なくとも私には発想すら浮かばなかった。ならばここは、試してみなければなるまい。

【ベーコンエッグ丼】


 本書には当然ながらレシピのようなものは書いていないので、漫画に描かれた内容をできる限り再現することに注力する。著者はベーコンエッグ丼がおいしいということを証明するために、いつもよりワンランク上のブロックベーコンや卵をチョイスして作っていた。なのでとりあえず、その辺を目安に材料を揃えることに。材料は1人前で「ブロックベーコン50g程度」「卵1個」「塩、コショウ少々」「ご飯」以上である。作りかたは以下。

1. ブロックベーコンを少し厚めに切る(2枚にする)。
2. フライパン(テフロン加工がオススメ)でベーコンを油を引かずに弱火で焼く。
3. ベーコンに薄く焼き目がついたら裏返し、卵を静かに落とす。
4. 白身が固まり、黄身が好みの固さになったら塩、コショウをふる。
5. 丼にご飯をよそい、ベーコンエッグをのせて完成。

 いたってシンプルである。ベーコンエッグとご飯の相性も悪いはずがなく、普通に美味といってよい。妻も著者の存在がなければ、この料理に出会うこともなかったろう。結婚というのは異文化コミュニケーションともいえる。お互いの文化を尊重し理解すれば、その生活は新しい発見で満たされるはず……などと未婚の私がいうのもおこがましいが、こうして書いていると、なんとなく結婚してみたくなるから不思議だ。

文=木谷誠