日本人が“しんどい働き方”から抜け出せないワケ

ビジネス

2018/4/24

『人生格差はこれで決まる 働き方の損益分岐点(講談社+α文庫)』(木暮太一/講談社)

 日本の労働問題には根深いものがある。給与、長時間労働、ブラック上司、非正規雇用…。人生で誰もが一度はその問題にぶち当たったことがあるはずで、もはや日本の文化として完璧に根付いた気配すらある。その問題を解決しようと政府が推し進めるのが「働き方改革」だ。しかし議論している中心は国や自治体、経営者ばかりで、当の労働者側の意見は置いてけぼり。「いかに従業員から出る不満を減らせるか」という「働かせ方改革」にすら感じるから悲しい。

 働き方改革なんて期待できない。こんなに毎日頑張っているのに、なぜ将来の不安が増すんだろう。そんな疑問に答える1冊がある。『人生格差はこれで決まる 働き方の損益分岐点(講談社+α文庫)』(木暮太一/講談社)だ。本書は、資本主義の構造を根本から理解することで、私たちの苦しい労働環境の原因を解き明かす内容となっている。汗水垂らして働いても報われない理由が本書にあるので、これからの日本についてぜひ一緒に考えてほしい。

■給料は明日も同じ労働をするための必要経費

 なぜ私たちの給料は安いのだろうか。本書を理解すると、その答えが見えてくる。そもそも給料の決まり方には2種類ある。

1.必要経費方式
2.利益分け前方式(成果報酬方式)

 1つ目を採用しているのが、伝統的な日本企業。2つ目を採用しているのが、外資系企業や歩合制で給料が決まる会社だ。実はこの2つ、驚くほど仕組みが違う。先に「利益分け前方式」の説明をすると、その名の通り、自分が稼ぎ出した利益の一部を給料としてもらう考え方だ。成果を上げればじゃんじゃんお金が入り、成果を上げられなければ信じられないほど減額される。シビアだがシンプルで明快なシステムだ。

 一方、大半の日本人が「必要経費方式」で給料を受け取っている。簡単に言うと、「私たちが明日も同じように働くために必要なお金」しかもらえないシステムだ。マルクス経済学では、これを「労働の再生産コスト」と呼んでいる。

 たとえば、働けばお腹が減る。翌日も同じように働くためには食事をしなければならない。また、どこかで休む場所も必要だ。さらに、毎日同じ服を着て過ごすわけにはいかないので、洋服代やクリーニング代がかかる。このように「私たちが明日も同じように働くために必要な経費」を、経営者が割り出して私たちに支給している。そのお金が「給料」だ。

 この中には、「きつい仕事の後の、ストレス発散に必要なお金」、つまり「週5日働くための娯楽のお金」も含まれている。飲み代もデート代も買い物代も、あくまで週5日みっちり働くための心身のリフレッシュ代。すべては経費にすぎない。

 年収1000万円を超えるような人が「お金が貯まらない……」と言っているのも、その激務で疲れ切った心身をリフレッシュするために「必要な経費」を使っているにすぎない。

 必要経費方式の給料は、決して私たちの人生を豊かにするためのお金ではない。だから「安い」と感じるのだ。頑張った努力量や貢献した成果は、ほとんど含まれていない。

 どれだけ働いても報われない理由の1つが、本書でもっとじっくり語られている。ぜひご自身の毎日を思い返しながら読んでほしい。

■なぜ長時間労働がなくならないのか

 本書よりもう1つだけご紹介したい。労働者が長時間働かされる理由だ。そのために、10kgの綿花から10kgの綿糸を生産する過程を分析したい。まず、10kgの綿糸を生産する費用は以下とする。

綿花10kg……12000円
使用する機械のレンタル料……4000円(1時間1000円×4時間)
労働者の給料……4000円(1日分)
合計:20000円

 2万円かけて生産した10kgの綿糸は、2万1円以上で売らなければ利益が出ない。これは当たり前の話だ。では、綿糸の生産量を倍にするとどうなるだろう。

綿花20kg……24000円
使用する機会のレンタル料……8000円(1時間1000円×8時間)
労働者の給料……4000円(1日分)
合計:36000円

 なんとすべての金額が2倍になるのではなく、労働者の給料が据え置きになり、4000円お得に生産できてしまった。なぜだろうか。この理由は、先ほどの「労働の経費」につながる。

 資本主義経済では、企業は労働者と契約し、その1日分の労働力を買い取っている。つまりその人を1日働かせる権利を持っているのだ。「給料」さえ支払えば1日何時間働かせようが、資本主義の観点から見ればなんら問題ない。10倍の綿糸を生産させたからといって、労働者の給料も10倍にする必要はない。事実、産業革命が起きたイギリスでは1日19時間働かされた労働者もいた。

 このように企業は、労働者の1日分の労働力を買い取り、長時間働かせることで利益を生んでいたのだ。これを「絶対的剰余価値」と呼ぶ。ここまで読んで、「労働者は搾取される」という言葉が頭をよぎった方も多いだろう。

 また、「イノベーションのコモディティー化」についてもご紹介したい。たとえば、先ほどの綿糸20kgを生産するのに平均8時間かかるとしよう。ところがある企業では、特別な技術を開発して4時間で同量の綿糸を生産できるようになった。結果、その企業は莫大な利益を生み出すことができた。

 しかし資本主義の世界では「技術革新&コスト削減」が当たり前となっており、その企業が特許を取得しない限り、いずれはすべての企業が4時間で20kgの綿糸を生産できるようになってしまう。この現象は消費者から見ると素晴らしいことだが、労働者から見ると悲劇でしかない。

 たとえば、30年前にソニーが「ウォークマン」を発売した。これが爆発的ヒットとなり、莫大な利益を上げた。しかしその技術も数年で知れ渡り、「当たり前の商品」となってしまった。2018年に当時のウォークマンを販売してもまったく売れないだろう。消費者にとっては素晴らしいことだが、労働者からすれば悲劇でしかない。また新しい製品を生み出す努力が必要になる。

 もっといえば、30年前の職場を想像してほしい。当時のビジネスマンたちは、PCもスマホもインターネットもない環境で働いていた。現在と比べて非常に非効率だが、それでも今と同じかそれ以上の給料をもらっていた。2018年を生きる私たちは30年前と比べてはるかに効率的に仕事を処理しているにもかかわらず、つまり30年前のビジネスマンの何倍も働いているにもかかわらず、給料は似たようなもの。イノベーションによって労働の密度がどれだけ圧縮されても、それが「社会平均」になってしまえば私たちの給料は元通りだ。

■本当の「働き方改革」とは

 本書ではこの他にも日本が抱える様々な労働問題を、資本主義の構造を解き明かしながら説明している。そして私たちがいかにストレスなく毎日働けるか、本当の意味での「働き方改革」を提案している。

 その1つが、「いかに必要経費を下げるか」だ。先ほども述べたように、私たちは「明日も同じように働くだけの経費」しかもらえない。残業しても待遇の良い企業に転職しても、もらった経費分だけ消費してしまえば元も子もない。ならば、心も体も消費しないような働き方ができないだろうか。その経費をできるだけ下げられれば、その分だけ豊かになれるかもしれない。

 これ以上は際限がないので、もっと知りたい方はぜひ本書を手に取ってほしい。できるならば、本書を片手にこれからの日本の将来を国民全員で考えたい。労働者を雇うお偉いさんたちだけで労働問題を話し合っても、国民が望む解決案は1つも出てこない。労働者の問題は労働者が考えるべきだ。「働き方改革」を「眉唾モノ」にしないためにも、私たちが本気で考える時期が訪れている。

文=いのうえゆきひろ